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wO-LVes ~オオカミのいる日本~  作者: 海野遊路
第八章 『マックスウェルの悪魔』
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11 〝軽井沢シンドローム〟

「軽井沢シンドローム」(たがみよしひさ)から

「どう?こっちの生活には慣れて来た?それから、ネストにも」

 伝が訊くと、微笑が慌てて、「あ、はい」と頷く。

「萌はちゃんと先輩らしくしてる?」

「ええ。とっても親切に教えてくださいます」


『結局、最後の詰めでミスって負傷者一名かよ。気分悪』


「深夜先輩も一緒ですし」


『でも、すごく大きなトンネル事故だったもん。最後の一人まで助けられたのは、むしろKとファーレンハイトがぎりぎりまで抑えてくれたおかげだと思う』


「部長さんはいつもみんなをまとめてくれてます」


『ガウスのいう通りだよ。園児を庇って負傷したレスキューの隊長も命に別条はないということだし、事故の規模を考えたら、死亡者が一人もいなかったのは評価されていいはずだ』


「砧先輩も、思ったより親切ですし」


『俺たちの評価じゃないけどな。今回の救助活動の主体はこの地域を管轄する群馬県だから、評価されるのはあくまで県だ。誰も使用した道具に見向きもしないだろう』


「副部長の呉服先輩も親身になってくださいます」


『そう。プラスの評価をされるのはあくまで〝人間〟としての扱いがあった場合だけ。使い捨ての道具である限り、入手した時が最上で、正常に作動しなければ劣化したとみなされる。手になじむというのは、あくまで使用者の感覚的なものだわ。どれだけ頑張っても、毛皮を着た私たちに好意的な評価をしてくれるのは、現場で一緒に活動した人たちだけ。私たちが納品された後に新たに負傷者が発生した、というだけで、主体である県側からはマイナスの評価を受けるわ』


「景清先輩は、少し怖いと思ったけどそうでもないです」


『評価はどうでもいい。救出作業中の負傷者一名。死者がゼロ。それが結果だ』


「微笑もだいぶ慣れてきたと思います」


『マックスウェルがいれば、もっとうまくいってたかも』

『ほ、クロノス!』

『だってそうじゃないですか!マックスウェルなら風も起こせるし、真空状態を作ることもできる。そんなマックスウェルがいれば、少なくとも最後の爆発は防げたんじゃないですか?隊長さんに飛んできたタイヤが当たることもなかったんじゃないですか?』

『クロノス、みんなも疲れてるし、今その話はやめよう』

『ネクローシスは私に、私がいるからトンネルからの救出作戦ができる、って言ってくれました。同じように、マックスウェルがいれば作戦の可能性はもっと広がるんじゃないですか?そして、ネクローシスがあんな命がけの救出方法をとらなくても済んだんじゃないんですか?』

『死んだもんは帰らねえ』

『ちょ、ネクローシス!みんな、ガウスの、深夜の気持ちも考えなよ!』

『ファーレンハイト、個人名を出すな』

『だ、大丈夫、萌ちゃん』

『ガウスも』

『深夜』

『確かに反省点はあるけど、でも、みんな生還できた。被害に遭った人も、救助の人たちも、私たちも。これはやっぱ嬉しいことだよ。私たちに『生還』はおかしいかもしれないけど。それに、誰かを救うために誰かが命を落とすなんて、悲しいもの』

『ガウスが言うと説得力があるな』

『キモオターッ!』

『ファーレンハイト!大声を出すと運転席に聞こえる。ドライバーが誰であれ、感染の可能性はできるだけ低くすべきだ』

『チッ。八島クンさぁ、いつもそんな風にリーダー風吹かせて仲裁に回ってるけど、そもそも、真昼がハゲタカのことをあんなに真剣に訴えたのをあんたが無視してたからじゃん。八島クンには八島工業がついてるから将来安泰かもしれないけど』

『ファーレンハイト。だからそういう話は今ここでは』

『呉服サンもだよ。二年前ハゲタカが教育委員会からうちに送り込まれてきた時、槍を警戒した真昼があれだけ排除しよう、少なくとも警告しよう、って言ったのに、まずは様子を見るとかで、結局真昼を見殺しにしたようなもんじゃん』

『それは違うわ。私たちは何度も話し合いの機会を持った。でも、マックスウェルは耳を傾けようともしなかった。それがあの不幸な結果につながった』

『真昼の自業自得っていうわけ?』

『そこまでは言わないわ。でも、彼が勝手な単独行動をしなければ、事故の被害にはあわなかったかもしれない』

『そもそも事故ってのだって単なる公式発表じゃん。真昼は喧嘩っぱやいけど馬シカじゃない。特に火災関係の災害や原因については、遠吠えにコラムが載るくらい詳しかった。それに、施錠されてたって、旧部室一部屋分の空気くらいなら何とかできたはず。それなのにあんなになるなんて、いくら深夜をかばったっていっても、ただの事故ならあんなことになるわけない。絶対、ウルヴズのことを知ってる奴らにはめられたんだよ』

『和見峠を過ぎたな。止めてもらってくれ』

『何?ニヒルなイケメン様。俺はかんけーねー、っての?』

『道路わきの林にバイクを置いてきた』

『そうやっていつも単独行動で一匹狼気取ってるけど、あんただってしょせん十把一絡げのウルヴズじゃん。無関係とは』

『萌ちゃん!萌ちゃんが私や真昼のことを想ってくれてるのはすごくわかる。でも、それで人を責めたりしちゃダメ。原因が何であれ、真昼が私を事故からかばってくれて、そして、砧さんと、偶然仕事で校内にいた伝さんが助けてくれた。他の先輩方も駆け付けてくれた。萌ちゃんは病院に通い詰めてくれた。みんなに感謝することはあっても、誰かを憎んだり恨んだりはしたくない。真昼だって、きっとそんなこと望んでない』

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