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wO-LVes ~オオカミのいる日本~  作者: 海野遊路
第八章 『マックスウェルの悪魔』
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10 〝夜明けの祈り〟

「夜明けの祈り」(アンヌ・フォンテーヌ監督 2016年のフランス、ポーランドの映画)から

 電話を切って駐車場に車を停め、山門への階段を上がる。白く染まった墓地の一角で、墓石を前にしゃがみこみ、手を合わせていた少女が振り返った。

「あ、萌先輩のお兄さん?」

「やあ、水無瀬さん。こんにちは。驚かせちゃったね」

「いいえ。あ、さっきは」

「何?」

「あ、いえ、何でもないです」と微笑が慌てて首を振った。

「萌先輩のお兄さんも、真昼先輩のお墓参りですか?」

「うん。水無瀬さんも?」

「はい。深夜先輩に場所を聞いて。一緒に行く、って言われたけど、何となく一人で来たかったので。配達用の自転車で」

「まだ雪が残ってるのに?」

「こっちはそうでもないです、じゃなくて、気を付けて来ました」

「なら邪魔しちゃったかな。申し訳ない」

「あ、気にしないでください。もう、ご挨拶はちゃんと済ませましたから。真昼先輩にも、真昼先輩のご両親にも」

「そう」と伝も花を置き、手を合わせた。

「前に『マー君には手を合わせる気になれない』っておっしゃってましたけど、ここでは手を合わせるんですね?」

「ご両親にね。二人が赤ちゃんの時に亡くなったから、俺はお会いしたことないけど」

「はい、火事でだって」

「うん。そして、二人を助けた高校生も亡くなったらしい。きっとマー君みたいに正義感が強くて自己犠牲を厭わない子だったんだろうね」

「動画、見ました。最近になってアップロードされたって、砧先輩が。映りが悪いけど」

「そう」

 伝が頷き、それから新しい花束を見た。

「買って来たの?」

「はい、途中のスーパーで。でも、お花、たくさんありますね」

「シンちゃんや萌がマメに来てるしね。それに、ネストの他の子たちも」

「他の先輩方も?」

「うん。俺はあまり話したことはないから知らないけど、何度か行き会ったことはあるよ。でもね、マー君にとっては皆上級生だからね。今日は後輩が来てくれて喜んでるよ」

「だと嬉しいです」

「ああ、この後は家に帰るんでしょう?乗り心地の悪い車の助手席で良ければ送るよ。自転車は荷台に積めばいいし」

「いいんですか?」

「むしろ送って行かないと、萌やシンちゃんに怒られちゃうよ。もちろん、マー君にも」

「あ、じゃあ、すみません。お願いします」

 そして二人は墓地を後にした。自転車を荷台に積み、助手席の扉を開けると、微笑が来た道を振り返った。

「どうぞ。どうしたの?」

「さっきの女の人、萌先輩のお兄さんを見てたような」

「そう?あの、階段ですれ違ったご婦人?」

 伝も山門を見上げるが、雪が解け始めた階段には既に誰もいない。

「気付かなかったけど、まあ、行こう」

 微笑も頷き、助手席に乗り込むとシートベルトを締めた。

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