7. 〝ある歌姫の想い出〟-6
「その後すぐに部長の男の子が走って来た。担架で運ばれる二人に驚き、肩を落として砧君に状況を訊いていた。マー君とシンちゃんはそれぞれ別の救急車に、って話だった。『一緒にしてあげられませんか?』と言ったが、一台で二人は適切な処置が難しい、と言われた。でも、突然一台の救急車が動かなくなってしまい、結局二人は同じ救急車に載せられた。できたばかりの浅麓医療センターに搬送される、ってことだった。もしかしたら、短い時間でも二人でいられたことは良かったのかも知れない、と今は思う」
役場入り口の信号が青になり、右折して国道十八号に向かう。ふとスコラ御代田の方を見ると、さっきとは別の少年が図書館に入って行った。
『真昼君、それはいくら何でも短絡的だよ』
『へえ、どうして』
真昼が振り返って八島を見る。
『最後にものをいうのは力でしょ?』
『力と言ってもいろいろある。ペンだけじゃない。もちろん、単純な戦闘力など問題外だが。現代においてものをいうのは、戦闘力ではなく経済力や政治力だよ』
『そりゃ、八島クンには八島工業がついてるからいいよね。でも俺たちの場合、そんなの手に入れる頃には爺さん婆さんになっちゃうじゃない。老いぼれてからようやく自由を手に入れたとして、それが何になるの?よぼよぼの体で何ができるの?』
『そんなに先まで我慢しろなんて言ってないよ』
『せっかくの力も大人の都合で鍵をかけられ、自分たちの意思ではほとんど使えない。走るのが速い奴も、肩がいい奴も、皆自分の好きな分野で好きなだけ能力を発揮してるのに、俺たちは制限だらけ。むしろない方がいいくらいのもんじゃん』
『それだけ僕らの環境が特殊だということだよ。制限やしがらみのおかげで、こうして日常生活を営むことができる。皮肉な話だけど』
『そんなもん、籠の中の虫に与えられた自由と同じじゃん』
『それは仕方がない。君も僕も、まだそういう枠組みを設定できるほど成長していない。君の主張は、子供がゲームをやるかどうか、子供に議論させるようなものだ』
『それは子供がゲームを欲し、大人は与える力があるからでしょ。俺たちはこの環境を与えてくれなんて頼んでない。むしろ勝手に押し付けられたんだ。なのにゲームと同列で語るなんて、何だっけ、詭弁、だっけ?さすが八島クン』