4. 〝ある歌姫の想い出〟-3
「二人と仲の良かった妹さんは?」
「萌はその数日前から、雑誌のモデルのアルバイトで沖縄に行ってた。その日に戻る予定だったし、すぐにどうにかなる距離でもないから、連絡しなかったんだ。帰って来た萌は怒り狂って、俺を殴って。シンちゃんの意識が戻るまで俺と口を利かなかった。というより、ずっと病院に通い詰めて、うちにもほとんどに戻らなかった。しばらくは授業もろくに出ていなかったし、ハウルズの配達はマー君、シンちゃんの分も含めて砧君と俺がやってた」
龍神公園の脇を通る。雪が溶けかけた芝生の上で、厚着をしたカメラマンや照明の中心に、髪の長い少女が南の方を向いて立っているのが見えた。
『真昼!こら!お兄ちゃんから離れろ!』
萌が叫びながら駆けて来る。
『おいおい、萌。ブラコンもいい加減にしろよ。いくらデンさんがイケてるからって言っても、きょうだいじゃ未来はないぜ』
『あんたこそ男同士じゃん』
『時代は俺に追いつきつつあるし』
『ざけんな、お兄ちゃんだって困ってるじゃん!世界一かっこいいお兄ちゃんにはあたしみたいな超絶美少女が似合うんだよ!』
『いや、宇宙一イケてるデンさんには、俺みたいな超絶美少年だね』
『真昼!いい加減にしなさい。萌ちゃんも本気にならないで』
『そうそう、萌もマー君たちと仲良くしないとね』
『お兄ちゃん!』
萌が口をとがらせ、それから笑みを浮かべる。
『でも、お兄ちゃんの言う通り。深夜と真昼とはいつでも一緒。これからも、ずっと』