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wO-LVes ~オオカミのいる日本~  作者: 海野遊路
第七章 『スノーボール・アース』
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3. 〝メリー・ポピンズ〟

「メリー・ポピンズ」(ロバート・スティーブンソン、ハミルトン・S・ラスク監督 1964年のアメリカ映画)から

[まだ熱いわね]

 トンネルの入り口に立ったKが呟く。 横転したトラックやバスの向こうを炎が揺らめいている。

[ここでこんなに熱いんだから、中はもっとね]

[あたしのウイルスじゃあんまり冷却効果がないしね]

 ファーレンハイトが言い捨てる。

[そんなことないわ。あなたのウイルスは障害物を迂回できる。でも、私のは直線にしか進まない]

 そういうとKがトンネルの天井を見た。

[仕方ないわ。上る]

 Kがトンネルの天井部分に貼り付いた雪を見上げた。

[まじで? まさかそのまま障害物越えるとか言わないよね?]

[そこまでは無理。入口は雪が吹き込んでるけど、向こうの壁や天井は乾ききってる]

 Kがトンネルの北側、点検用歩道の柵を背にして立った。そして深呼吸をすると、南側の壁に向かって駆け出した。そのま壁面を蹴りながら駆けあがり、中ほどで逆さまになって静止する。それからゆっくりと足場を確認しながら一歩、又一歩とブーツを踏み出し、天井の中央で止まった。

[どう?見える]

[ファーレンハイトのおかげでひどい状況にはなっていないみたい。ライトの光も煙で拡散して届かないからはっきりわからないけど、被災者は多分北側の退避所に隠れているみたい]

[そこって煙突の出口みたいなもんでしょ? 空気悪くない?]

[一応トンネルの排煙装置が機能しているようね。もうすぐパスカルたちが助けに来るわ。それまで持たせないと]

[でも、あいつらが来たら、オームがトンネルの壁の中通ってる電気、全部止めるでしょ? 当然排煙装置も止まるよ?]

[そんなこと言ってられないわ。とにかくパスカルが来るまで何とかもたせないと]

[あたしの温度域じゃ、瞬間で壁に貼り付くなんて芸当できないし。何かできることある?]

[これまで通り、できる限り空気を三十度以下に冷やして。そうすれば後は私がピンポイントで冷却していくから]

[ラジャ]

 ファーレンハイトが頷き、それから言った。

[てか、Kって、やけにパスカルのこと信頼してんじゃん]

[ば、バカ言わないで!]

[じょ、冗談だって。そんなムキになって怒んないでよ]

[こ、こちらこそごめんなさい。今、頭に血が上ってるから]

[そりゃそうだ]

 ファーレンハイトが笑った。Kもくくっと声を漏らす。

[ま、でも、わかんないでもないよ]

[何が?]

[パスカルへの期待。あいつ、悪知恵働くから、何かうまいこと行きそうな気がするんだよね。気分悪いけど、いざって時は頼りになるっていうか]

 Kは答えない。ファーレンハイトは天井を一瞥し、呟く。

[忙しそうで、あのバカどころじゃないよね。ま、あたしもだけど]

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