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wO-LVes ~オオカミのいる日本~  作者: 海野遊路
第六章 『ツァラトゥストラはかく語りき』
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19. 〝疎外、異化〟ー1

「疎外、異化」 「異化」(エルンスト・ブロッホ)から

「核心をつかない〝月〟に苛立った真昼は、講演会でそこを突っ込んだ。本文では淡々と観察記録を残しながら、コラムではオオカミに直接触れずに環境の変化ばかり、良いものも悪いものも、を書く。〝月〟はオオカミを保護したいのか、それとも再度絶滅させるべきと考えているのか、と。すると、講演者の傍らで立っていた役人が真昼に質問を返した。クラウドからその時の音声引っ張って来たから、自分で聞け」

 砧がスマートフォンを机の上に置いた。

『地球は誕生以来、数えきれないほどの実験を繰り返し、多様な生物を生み出し、そして絶滅させてきた。これらの生物と浅麓地方のヤマイヌの違いは何だと思う?』

『絶滅したのを人間が再度復活させたことでしょ』

「真昼!」

 深夜が、そして萌がスマートフォンに駆け寄った。音声が続く。

『違う。そもそも絶滅だ何だと言う言葉自体、人間視点のものだ。環境省の絶滅の定義は妥当だが、深い森や深海については、観察者次第だ。人類は白亜紀に絶滅したとされるシーラカンスの現生種を発見したが、シーラカンスからすれば大きなお世話だろう。長い歴史の中では、ある生物が絶滅しても、生き残った近縁種から偶然絶滅したのと同じ種が生まれたことがあったかもしれない。もちろんその可能性はかなり低いが、知的生命と言われる人間が誕生したのだって、同様に極めて低い可能性だっただろうしね。それらとヤマイヌの違いは、明確な目的をもって生み出されたかどうか、だ』

『だったらどうだってんですか?』

『ジャイアントインパクト説によると、月は、約四十六億年前に地球から弾き飛ばされ、以来、少しずつ遠ざかりながら地球を見守り続けてきた。潮汐力などである程度の影響を与えることはできるが、今日では三十八万キロにまで広がってしまった距離を越えて直接の干渉はできない。それが生まれる過程がどのようなものだったにせよ、ただ、見守り続ける。数えきれない生命が地上に生まれたのも、そしてその多くが絶滅したのも、ただ、見つめてきた。我々も同じだ。密猟者対策や、時折里に下りて来るマヨイイヌ以外には極力接触せず、観察する。例えその結果、ヤマイヌが二度目の絶滅を迎えたとしても』

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