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wO-LVes ~オオカミのいる日本~  作者: 海野遊路
第六章 『ツァラトゥストラはかく語りき』
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12. 〝Wolf Cascade〟-3

「『月は見ている』は、以降、ニホンオオカミの観察記録とそれに関する補足という形で続きます。観察記録は淡々としたもので、日付と個体、又は群れのリーダーの名前が記されているだけです。例えば、初めての観察記録、これは箙司馬が軽井沢町役場に勤める前ですね。『2004年3月21日9時5分、アメノホヒ、タキツヒメ、アマツヒコネ、イクツヒコネ』とこれだけです。彼が就職した年度の最初の報告が、『2006年4月3日、8時17分、オモイカネ、クマノクスビ、子三柱』です。以降も、幼狼については基本的に『子』で一括しています」

「位置情報はないんだね」

「はい。それについては、密猟者対策だと別記されています。その代わり、大まかな縄張り図が毎年掲載されています。そして六年前の記事ですと、『2012年2月10日6時21分、アマツクニタマ、シタテルヒメ、アメノワカヒコ、アメノサグメ』となっています。ちなみに、神話の神々の名前が当てられていますが、当然のことながら物語との相関性はなさそうですし、雌雄も厳密ではありません。通常オオカミは雌雄のペアを中心として群れを作るようですが、先の例ですと、クマノクスビもオモイカネも一般に男性神とされていますから」

「見ただけでそこまで区別できるもんかね?俺なんて、多分オスメスの違いもわからないよ」

「成狼の場合、雄は雌より大型のようですが、それ以上は何とも言えません。犬の場合で言えば、他人には見分けがつかなくても飼い主ならわかる、ということもありますし。箙司馬は、オウムのポリネシアの言う『良い観察者』だったのかもしれません」

「いやそれフィクション」

「で、最近の記録では、 『2016年1月7日10時21分、キサカイヒメ、ウムカイヒメ、アマツマラ、タニグク』、『2016年4月7日15時1分、キサカイヒメ、ウムカイヒメ、アマツマラ、タニグク。ウムカイヒメ、カムサリマシキ』、『カムサリマシキ』は死んだということだと思います。それから、『2016年5月31日10時21分、ニエモツノコ、イヒカ、イワオシワクノコ、子四柱』、『2017年6月16日15時5分、サシクニ、スセリビメ、アマツマラ、ヤシマジヌミ、タニグク』、タニグクの観察記録が多いですね。それから、『2017年7月13日5時37分、ニギハヤヒ、トミヤビメ、ナガスネヒコ、ウマシマジ』。カレンダーを見ると、これは木曜の早朝ですね。神話としては神代を過ぎ、神武天皇からいわゆる欠史八代に入っていますが、時間軸も、やはり神話に沿っているわけではないようです」

「仕事の傍らでそんなことをしてたとは。ほぼボランティアだよね?」

「おそらく。そして、オオカミの観察記録以外の、浅麓地方の町の変化その他、更には先ほどの密猟者対策など、ニホンオオカミを取り巻く環境について幅広く綴っているのが、時々挿入される『ウルヴズカスケード』です」

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