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wO-LVes ~オオカミのいる日本~  作者: 海野遊路
第六章 『ツァラトゥストラはかく語りき』
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8. 〝ウォッチメン〟-2

「新薬テイアはご存知ですよね?」

「冥王症の特効薬だよね」

「ええ。それでは、治験薬オルフェウスはご存知ですか?」

 目をしばたく。手を目の前で動かす。

「いや、知らない」」

「ならば、『ジャイアントインパクト説』は?」

「ああ、それなら聞いたことがある。大昔、地球に小惑星がぶつかって月が弾き出されたっていう話だっけ?」

「そうです。十五年前パンデミックを引き起こした感染症は、人の遺伝子を構成する核酸塩基の一つ、アデニンの異常を引き起こすことから、"Human Adenine Anomaly Syndrome"、短縮して"HAdeAn Syndrome"、つまり冥王症と名付けられました。その原因である冥王ウイルスは、レトロウイルスでありながら狂犬病ウイルスのような弾丸型の形状、既存の薬では追いつかない体内での驚異的な拡散と変異速度、そして、噛み付きなどによる唾液経由だけでなく、近距離であれば呼気でも感染すると言った特徴から、『ショットガンウイルス』とも呼ばれるようになりました。人への感染源がオオカミとされたため、巷に流布する銀の弾丸のイメージから、『シルバーショットガン』という俗称の方が広く定着しています。免疫力の高い大人ではほとんど発症に至らないことが、潜伏に気付かないままキャリアとしてウイルスを拡散することに寄与し、結果的に、世界中で幼児を中心とした大きな被害が生じました」

「歴史の講義はいいよ。それよりどこに行くの?バルカンパーク?登山口?」

「パンデミックで世界中が混乱し、グランドゼロの日本が国際的な非難を浴びる中、道成寺博士夫妻を中心としたチームは、余計な遺伝情報を弾き飛ばすベクターウイルスを開発しました。それが月の母の名を持つ新薬テイアです。罹患した子供たちを生まれて間もない原始冥王期の地球になぞらえ、衝突によりそれをあるべき姿にしたとされる小惑星が名前の由来です。一般に新薬の承認までの時間が圧倒的に長いと言われる日本ですが、この時ばかりは非常事態宣言を出し、欧米以上の速さでテイアを認可、これにより冥王症は急速に収束しました。しかし、このテイアには前身となった治験薬があります。テイアの別名を冠せられたオルフェウスです」

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