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wO-LVes ~オオカミのいる日本~  作者: 海野遊路
第六章 『ツァラトゥストラはかく語りき』
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6. 〝箙〟-3

(えびら)司馬(しば)。二十九歳。軽井沢町内のアパートで独り暮らし。ここまでは昨日申しあげた通りです。で、彼の経歴ですが、佐久市内の農業高校卒業後、軽井沢町役場に就職、環境保全課に配属されています。家族は、軽井沢町内の児童福祉施設で働く母親、いのりのみです。半年前までは同居していましたが、去年の秋ごろからアパートで独り暮らしでした」

「まあ、普通だね」

「いいえ、普通ではありません。中学時の成績は非常に優秀で、佐久の進学校を勧められたのですが、実家が農業を営んでいる、というわけでもないのに、中学三年生の時に農業高校へと進路を変更。当然高校でも非常に優秀な成績でしたが、こちらでも大学等への進学の推薦入学を断っています」

「農業に関心があったってこと?」

「農業そのものより、それを含む、浅間山周辺の環境への関心のようです。就職初年度に彼は、半官半民の"the Municipal Observers of Nature(自治体自然観察監)"を立ち上げました。これは十年かけて、今では県内全域、更に隣接県などの自治体に広がっています」

「へえ、時々新聞に載るあれって、彼が作ったのか?」

「はい。彼が〝月〟を立ち上げた一番の目的は、オオカミの観察と保護だったようです。おそらく、中学生の頃からそれを目的として計画を立てていたのではないかと?」

「中学生で?神童か?」

「神童ですね」

「巴が言うんならそうだろうね」

「いいえ。正直、私など足元にも及びません。先ほども申しましたように成績は飛びぬけて優秀、そしてスポーツも万能。人格も優れていた、地元の子供たちとの交流会などにも積極的に参加していたようです。母子家庭という自身の経験もあり、環境問題以外では、学童などの充実を図っていました」

「聞けば聞くほど銀行強盗の犯人像から遠のくね」

「ただ彼は若年性アルツハイマーだったようです。進行は服薬と治療で遅らせていたようですし、そもそも元が異常に優秀なため、周囲には気づかれない程度だったのかもしれません。全て、または大部分を一人で書いていたと見られるオオカミ観察記録のブログは、描写が正確だとしたら、行動力、記憶力、観察力など全てが高いレベルで備わっていたことを伺わせます」

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