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wO-LVes ~オオカミのいる日本~  作者: 海野遊路
第六章 『ツァラトゥストラはかく語りき』
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5. 〝箙〟-2

「い、いきなり過ぎて意味が分からないね」

 手探りで荷台の後方に行き、幌を開けて風を入れながら答える。

「ウルヴズは!」

 声が叫びに近くなる。

「ウルヴズは、それぞれに欠落した部分を補うような形でオルヴズを得ました。でも、〝月〟は、病気が加速しただけです。冥王症による疾患が心臓にあれば心臓が、肝臓なら肝臓が、脳なら脳が通常より遥かに早く劣化します。個人差はありますが、三分の二から三分の一くらいの寿命と予測されています。冥王症に罹患したのもオルヴズを得たのも当時の乳幼児がほとんどでしたが、一部に十代の少年少女がいました。そもそも早期にオルヴズの存在がわかったのは、彼らが、自分たちに起こる異変を訴えたからです。その結果、ウルヴズの場合は対策も比較的早く始まりました。でも、俺たちの多くは、気づかないうちに症状が進んでいただけです。被害者の数も、おそらくウルヴズより更に少数。法整備も全く追い付いていません」

「何と言っていいのか、気の毒な話のようだが、だからと言って、犯罪に手を染めていいわけないよね。後、スピード出し過ぎじゃないの?」

「それならご心配なく。我々は、身分が公にならない限り法の適用を受けません。ウルヴズとは違い、例え毛皮を着ていなくても。違法行為をなし、逮捕されたとしても、国からの命令で、最長でも二、三日で釈放されます。前科もつきません。言わば、法的に無敵です」

「ありえないだろ?」

「日々ニュースなどで犯罪者が逮捕されますよね?でも、あれが本当の氏名であるかどうか、画面に映ったのが本人たちか、確認されたことがありますか?」

「いや、知らないけど。というか、知らない人が見れば俺が乱暴な運転をしてるみたいじゃない。勘弁してよ」

「随分落ち着いてますね」

「焦りまくってるよ。目もまだ見えないし、痛いし。声でわからない?」

「まあいいです。とにかく、一昨日の銀行強盗も、事件解決後はほとんど報道されていないのもご存知かと。このように、我々が逮捕されても、はっきりと顔が映像や写真に映らない限り、偽名が報道されます。当然我々自身も釈放され、何もなかったかのように帰宅する。ある意味ゲームのリセットみたいなものです」

「人命は?」

「あくまで、原状回復可能な限り、ですから。ただし、我々のリーダーの指針で、『返せないものは奪わない』を原則としています。もちろん、時間や精神的な影響など、どうにもならない例外はありますが、特に人命については害さないことが作戦の遂行より優先されます」

「きれいごとだよね。実際、君は今、催涙ガスで視界を奪って俺を拉致している。どこに連れて行くのか知らないが」

「時と場合によります。ただ『話を聞いてください』と言っても聞いてくれないでしょうし」

「まあ、そりゃそうだけど。で、その、法的には無敵の〝月〟が、銀行強盗が失敗したからって、次に赤帽を狙う?俺が金持ってるように見える?」

「俺たちの目的は金じゃありません。一昨日の事件は、数か月前から打ち合わせを重ね、決行した作戦でした。投入されたのがガウスだったのも計画通りです。決行日に合わせ、他のウルヴズを事前に発注し、複数人による籠城事件の制圧に向いているウルヴズのうち、ガウスが納品されるよう計画しました。先月の密造銃工場残党制圧も計算に入れて。当日ウルヴズの納品が多かったのは、支部長の野宮さんならご存知でしょう?」

 車がタイヤを鳴らしながら右折し、坂を上り始める。

「俺は外部の情報を伝える役目でした。当然、無線で内部の情報も把握していましたから、全て計画通りに進んでいることも確認していました。リーダーが無線を切るまでは」

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