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wO-LVes ~オオカミのいる日本~  作者: 海野遊路
第五章 『人間の条件』
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6. 〝狼と人間〟

「狼と人間」(グリム童話)から

[恐怖心?]

 クロノスが唾を飲み込む。パスカルが続ける。

[で、肝心の作戦だが、まずはガウスがSS1のリュックサックのチャックを揺らせ。カチッ、カチッと、本人にしか聞こえない程度の音がするように]

 銃を構えながら周囲を伺っていたSS1が立ち止まった。そして四方を見回し、歩き出す。

『相手が立ち止まったら止めて、また歩き出したら鳴らせ。そうしてSS1が音に気を取られている間に、俺は回り込んでSS3に近づく』

 再びSS1が立ち止まった。傍らの杉の裏側を伺い、仲間の方を見やる。

『そのうちに、SS1は音が自分のリュックからだと気づく。仲間の存在で安心し、銃を置いてリュックに手をやったらガウスが銃を奪い、そのままSS1を倒せ』

 SS1が銃を杉に立て掛け、体をねじってリュックを見た。同時に銃が空を飛ぶ。振り返った男をガウスが蹴り倒す。

『奪った銃はクロノスに渡せ。クロノスは銃をSS1に突き付けろ。ただし今いる場所から半歩以上出るな。そこならSS2とSS3の位置から死角のままSS1を牽制できる』

『銃の撃ち方なんて知らないですけど』

『撃つ必要はない。というか撃つな。面倒なことになる。銃口を向けるだけでいい。ただ、持ち方で撃ったことがないのがバレるから、SS1にもなるべく自分の姿を見せるな。銃だけ見せていればいい』

 宙を飛んで目の前の地面に落ちた銃をクロノスが拾い、木陰に隠れたままSS1に向ける。

『ガウスはSS1に一撃だけ入れたらそのままSS2に向かって走れ』

 ガウスが蹴りの勢いのままSS2に向かって駆け出す。密猟者たちが振り返り、銃を構える。

『俺はガウスに気付いたSS2とSS3の耳元で圧縮した空気を解放し、破裂音を起こす』

 二人の密猟者が同時に叫び、両手で耳を塞いだ。木の葉が舞い、SS3の銃が足元に落ちる。

『その隙にガウスはSS2を襲え。俺はSS3の銃を奪う』

 ガウスがSS2に向かう。パスカルが飛び出してSS3の落とした銃を拾い、数歩離れてSS3に銃口を向けた。SS2が顔をゆがめながら銃を構える。

『SS2が銃を落とさなかった場合は、引き金を引く前に、SS2の銃と俺が奪ったSS3の銃を感染させろ。最低でも三十度以上は逸らせ』

 銃声が響く。ガウスの右側の杉に散弾が食い込む。

『そしてSS2が二発目の引き金を引く前に銃を奪え』

 一瞬硬直したSS2が再度狙いを定めようと銃を構えるが、その前にガウスが銃身を真横に蹴る。銃は不自然に半回転して、振り返ったガウスの手に収まった。銃口を突き付けられたSS2が、後ずさりながら両手を上げる。木の葉が地面に落ちた。

 ガウスとパスカルが二人の銃で誘導し、SS2とSS3を楢の木を背にして立たせる。ガウスが銃をパスカルに渡し、二人を木に拘束しようと手錠を取り出すと、銃を構えたクロノスが「すごいです」と言いながら木陰から出て来た。

「それに、こっちの方が建設現場の掃除よりかっこいい」

「出て来ちゃダメ!」

 ガウスが叫ぶ前にSS1が起き上がり、もたつくクロノスを突き飛ばして銃を奪い返す。

「クロノス!」

 ガウスがSS1に向かって駆け出しながら左手を伸ばし、真横に振った。クロノスに向けられた銃口が九十度横、ガウスの方に向く。SS1はそのままガウスに向き直り、銃を構え直して引き金を引いた。

「ガウス!」

 地面に倒れたままクロノスが叫ぶ。突然飛び出してきた影がガウスを横に跳ねのけ、銃弾を振り払った。そしてそのままSS1に向かい、すれ違いざま手刀を振り下ろす。銃身が地面に落ちる。機関部から先を失った銃を呆然と見つめるSS1にガウスが向かう。残った銃の半分を右足で蹴り、更に左足でSS1を蹴り倒した。パスカルが一丁をSS1に向けていることを確認し、クロノスに駆け寄る。

「大丈夫?」

「大丈夫です、いたた」

 クロノスが起き上がる。ガウスも顔を上げ、さっきの影を見上げる。バイク用のヘルメットとゴーグルを被り、マフラーで口を隠した姿。

「ネクローシス?」

「はやくそいつらを拘束しろ」

「ありがとうございます」

 ガウスが小声で言い、三人に手錠をかける。全員を拘束し終わるとパスカルが言った。

「お前、鍵がかかったままだな?」

「え?」

 ガウスがパスカルの視線を追う。ジャケットの肘のあたりから血が垂れている。

「大したことねーよ」

 彼が傷口を抑えた。ガウスが立ち上がり、その襟をつかんで杉の幹に押し付けた。

「二度と!」

 体を震わせ、顔を彼に近づける。

「二度とこんなことはしないでください!」

 そしてガウスはうなだれ、声を震わせながら言った。

「あなたは今、人間なんですから」

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