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wO-LVes ~オオカミのいる日本~  作者: 海野遊路
第五章 『人間の条件』
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2. 〝鉄くず拾いの物語〟

「鉄くず拾いの物語」(ダニス・タノヴィッチ監督 ボスニア・ヘルツェゴビナ、フランス、スロベニアの映画)から

 車が停止した。幌が開く。ガウスに続き、クロノス、そしてパスカルが降りる。ドライバーは幌を閉めると、ヘルメットを被った作業着の男に伝票のサインを貰い、Uターンをして来た道を戻って行った。

「壊れた門のところで何かやってますね?」

「直接見ちゃダメ。電溶(でんよう)、電気溶接機使ってるから、見たらしばらく何にも見えなくなっちゃうよ。目にもすごく悪いし」

「はぁい」

 作業中の男たちは手を止め、ガウスたちを一瞥した。それから道具を片付けると現場事務所に向かう。一人だけはこちらに近づき、パスカルたちを解錠した。そして単管で組まれた柵にかかったビニール袋を指さすと、残りの作業員とともに乗用バンに乗り込み、現場を後にした。

「も、じゃなくて、ふぁ、でもなくて、赤帽の人もそっけないですね?現場のおじさんはともかく」

 クロノスがガウスに小声で話しかける。

「それが決まりだから」

 ガウスが答えた。

「配送業者も現場の人も、必要以上の接触を避けなきゃ行けない。帰りの便もあるから、多分近くで待機してるはず。それから、おじさんじゃなくて現場監督」

「どうでもいいですけど、何か、ほんとに人間扱いされてないんですね」

「そうでもないよ」

 ガウスが現場小屋に向かった。先ほど現場監督が指さしたビニール袋を手に取る。

「やったー、お茶だ」

 ガウスが中身を覗きながら言った。

「お茶?」

「うん、温かいお茶」

「勝手に飲んでいいんですか?」

「私たちのためにわざわざ用意してくれたんだよ。投げ込みヒーターとバケツで温めておいてくれて」

 ガウスがレジ袋の中身をクロノスに見せる。パスカルは未整地の現場へと歩き出した。

「ほんとだ。手袋越しでも温かいです」

 レジ袋を触りながらクロノスがガウスに言う。ガウスが頷く。

「前はずっと缶コーヒーだったんだよ。モエモエ急便さんの話では、『現場の人は缶コーヒーが好きだから』ってことらしいけど。でも、少し前からお茶やスポーツドリンクにしてくれた。どっちでも気持ちはありがたいけど」

「でも、さっきのおじさん、じゃなくて、現場監督、お茶のことなんて何も言っていませんでしたよ」

「言っちゃダメだから。どの現場でもそうだけど、ウルヴズを使役する人たちは、指示は出せるけど、必要以上の話をしちゃいけない。私たちも、周囲に人がいるときは基本的に私語禁止。いくら毛皮を着ているからって、話し方の特徴なんかも出ちゃうから」

 クロノスがペットボトルをじっと見つめる。

「それにね、飲み終えたペットボトルを置いていったら、唾液からDNAを採取されちゃう可能性もあるでしょ。それを意図する人だって、いないとは限らない。本当は、私たちに飲食物を提供すること自体禁止なんだよ」

「何か、いろいろと厳しいんですね」

「さっきは反論したけど、パスカルの言う通り。この姿でいる限り、私たちはあくまで道具。でもね」

 ガウスがペットボトルを持つクロノスの両手を自身の両手で包んだ。

「同じ道具なら、いい道具を目指そうよ」

 そして、杭の打たれた地面を振り返る。

「さっきも少し言ったけど、権利関係で揉めた結果、あっちは放置、こっちは整地だけは終わってたけど、その後進まなかった。でも、ようやく国や県や町の間での合意ができて、来年度の竣工を目指してるんだって。さっきも言ったけど、完成すれば、地元の子供たちの遠足の目的地にもなる。万が一浅間山が噴火した時は、登山者たちの避難所の役割もする。砂防ダムも兼ねてるから、裾野の住民が避難する時間も稼げる。今回たまたま改造拳銃の取引場所になっちゃって、ネクローシスまで呼ばれたりしたけど、銃撃戦の後片付けをすれば、また建設が進む」

 ガウスが振り返った。

「パスカルの言い方はちょっときついけど、でも、パスカルの言う通り。人を倒したり、物を破壊することより、きちんと片づけて、作るための手伝いをできる方がずっと有意義だし、私もその方が好き。とにかく、早く済ましちゃお。ティータイムは後だよ」

 ガウスはそう言うとビニール袋をフックに戻し、パスカルのいる方に向かった。

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