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wO-LVes ~オオカミのいる日本~  作者: 海野遊路
第三章 『狼の巣』
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6. 〝オセロ〟

「オセロ」(ウィリアム・シェークスピア)から

「うう」

 微笑が眉を顰めた。深夜が目を伏せ、萌が砧を睨んだ。

「あ、でも」

 微笑が再度顔を上げた。

「そ、そう言えば、オルヴズに応じた装備もあるって言ってましたけど、それはどんなものなんですか?」

「それぞれによる。例えば」と砧が答える。

「例えばガウスは、感染対象の強磁性体に磁力を生じさせることはできるが、自分自身が磁力を発するわけじゃない。だから強磁性のグローブ、ぱっと見サイボーグみたいなやつを左手につける。当然靴底も鉄が入っている。場面によっては拘束用の手錠も複数」

「そうなんですか?かっこいい!」

「うん。でも、ひどい金属アレルギーで、さっきみたいに一瞬じゃないと痒いどころか痛くなっちゃうから、基本的には手袋の上から装備してる」

「あれ?右手は?」

「右手は、あんま使わないから」

 深夜が俯いた。微笑が首をかしげるが、砧が続ける。

「それから、さっき八島も言ったように、ケルビンはファーレンハイトと違って一方通行だから、冷却したはいいが下手をすれば自分自身が地面や壁に貼り付き、凍傷になったり身動きがとれなくなったりしてしまう。だからグローブは、液体窒素も扱える耐冷性の防水タイプだし、靴底につま先で操作できる超強力ヒーターが備わっている。オームは様々な電気製品の回路図を見るための特殊な眼鏡を使っている」

「萌先輩や砧先輩は?」

「ノノも一応耐熱耐冷手袋をするだろ?扱うものによっては凍傷になりかねないし」

「一応はね。呉服サンのに比べれば大したことないけど」

「だからと言って、別にケルビンやガウスたちが戦闘において特別すごいわけでもない。そもそもウルヴズは通常、鍵をかけられている。具体的に言えば、体内に埋め込まれた微小なチップによりウイルスの放出量が抑制されている。建前はウルヴズそのものをオルヴズから守るためだ。無意識にウイルスを放出すると危険な場合がある、ということで。ゼロにはならないが、解錠時の数十から百数十分の一程度でしかない。ミーナもその施術を受けているはずだ」

「あの、何か首のところにチクッとした奴ですかね?」

「それだ。当然感染対象も同程度に制限される。つまり、特殊能力のレベルが大幅に落ちる。もっとも、解錠されたとしても、一度に感染させることができるのは自身が持ち上げられる重さ程度だから、結局は大したことないけどな」

「え、しょぼっ」

「考えてもみろ。例えばガウスが鉄骨を自由に操れるなら、乗り物なんて要らないだろ?それに乗って空を飛んでいけばいいんだから」

「相変わらず夢のない言い方」

「まあ、それでも、施錠されてる時よりははるかにましだ」

「その制限って、どうやったら外れるんですか?」

「解錠権限がある者が直接、又は他の者を通して触れ、『解錠』と発声する。権限者は、行政機関や警察などの一定の階級、職級以上。それ以外にも、関係省庁に申請し、許諾されるか、又は解錠を命令された者が、その場限りの解錠権限を持つこともある。でも、解錠されたところで、俺たちのウイルスなんて、『ちょっと便利なマジックハンド』がある程度。ほとんどの場合、正面からじゃまともな武力には太刀打ちできない。ある意味オセロの駒やデズデモーナのハンカチと同じ。ハンマーで叩けば簡単に割れるし、はさみで切ればずたずたにできる」

「えー」

「しかしそれがゲームの盤面や毒が回った状態なら、状況次第じゃ一手で大勢(たいせい)をひっくり返せる。だからこそ世界から怖れられ、一方で強い関心を持たれている。その結果が、今の微妙な立ち位置だ」

「こら、微笑。目をキラキラさせるな!」

「ええ?だってその方が『甦る貴婦人(クイーンフェニックス)』的には」

「特にミーナの元に戻すってのは、非常に危険な能力でもある」

 砧がクローゼットの扉を開け、書棚の前に立った。

「世の中には、いくら払っても何かを直したい、と思う奴もいれば、いかなる手段を使っても直させたくない、と思う輩もいる。ミーナはその両者から狙われる可能性がある、ということを忘れるな」

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