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wO-LVes ~オオカミのいる日本~  作者: 海野遊路
第三章 『狼の巣』
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4. 〝日本狼物語〟

「日本狼物語」(岸田日出夫 三峰山博物館にて購入)から

「発注って、例のお仕事ですよね?何のですか?」

 八島たちが出て行った扉を見ながら微笑が訊く。

「『荷車の騎士』方式だ」

 砧がスマートフォンを取り出しながら答えた。

「荷台に乗ってはじめてわかる。それまではわからない」

「『荷車の騎士』?」

「アーサー伝説で有名なランスロットの異名だ。でも、それはどうでもいい。そもそも、乗りたいわけでもないし、物理的に無理な環境でなければ拒否できないしな」

「え、でも、もし授業中に何かが起きたら?」

「取材と称して堂々と抜けられる」

「何かそれもかっこいいですね」

「微笑、あんた、ホントミーハーだね」

「もっとも、一部あらかじめわかってる発注もある。例えば俺とエマは今日の夕方、登山口の現場に行くことになっている。ついでだ。ミーナも納品できるよう申請してみよう」

「あたしもヨロ」

「ノノは無理だ。需要があれば最初から発注されてる」

「ちっ!何でキモオタが一緒であたしがダメなんだよ」

「萌ちゃん、みんなそれぞれ特性があるから。砧さん、毛皮はどうします?」

「予備があるだろ?下はジャージと軍手と運動靴でいい」

「てか、現場って、何の現場ですか?」

「龍神ルート登山口のシェルター兼駐車場の建設現場。この辺りには龍神伝説があるから、登山ルートを龍の体に見立ててつけられた名前の、入口。その少し下の方の、ゴミ焼却施設とその余熱を利用した『浅間バルカンパーク』っていう、複合レジャー施設とセットで、浅間山の観光に出遅れた御代田町が目玉にしようとしたんだって。私たちが生まれるずっと前の噴火で、このあたりにあったゴルフ場の一つがだめになっちゃったんだけど、今世紀になって国と県と町がその敷地を買収して開発を進めてた。ほぼ完成したのに、権利関係でもめたらしくて、後はケータイの基地局を作って外構、ってあたりで放置されてる。門が閉まって、コンパネで塞がれてるから中の様子は良くわからないけど、施設を維持するために水道も電気も使えるようにはなってるみたい。仕事で何度も行ってた伝さんの話だと、プールや温泉やアスレチックのある、すごい施設らしいんだけどね」

「うん、重機まで最新の電気式だったみたいだけどね。そういう重機も置きっぱみだいだよ」

「へー、なんかもったいないですね」

「計画自体は昭和の頃からあったらしいが、ニホンオオカミの復活で環境への配慮が更に厳しくなったからな。なかったことにされてるって意味じゃ、ニホンオオカミに似てるとも言える。で、公式発表はないが、先月の末に、裏浅間(うらあさま)の銃密造工場が何者かに襲撃を受けた。最終的には情報を掴んでいた県警の大規模な捜査が入ったが、何丁かの銃は奪われ、何人かは逃げた。襲撃した側の正体はわからないままだ。で、昨日その残党を、機動隊とネクローシスが制圧したはいいが、銃弾やら車の残骸やらが大量に残った。ある程度は重機を入れて処理したが、細かなものがだいぶ残っているらしい」

「銃撃戦って、今の日本であるんですね」

「この辺りは他の地域と状況が少し違うからな。いくら政府が公式に認めていないって言っても、ニホンオオカミの生息地になれば、直接の影響があるのはサンライン沿いの農業従事者だ。国からすればクローンまで作って復活させておいて駆除などできないし、農家からすれば、霞が関や大学の建物の中にいる奴らに『保護しろ』なんて言われても、ふざけるな、じゃあお前らの建物にオオカミ放つぞ、となる。最終的に銃刀法が改定になり、指定区域内の農業従事者は、一定の講習を受ける形で銃を所持できるようになった。ただ、あくまで護身用だから、射程距離も短く威力も弱い特殊な日本製の散弾銃のみだし、弾丸の所持数も限定される。当然一発でも撃てば報告が義務付けられているし、撃たなくても定期的な残数の提示が必要だ。だが、貴重なニホンオオカミ、それに銃となれば、裏社会が動かないわけがない。密猟者の侵入は一時ほどじゃないにしろ後を絶たないし、壊れにくい日本製の銃だから、武器にしたり売り捌いたりする奴が日本人、外国人問わず暗躍する。そのノウハウを生かして拳銃や自動小銃まで手掛けている非合法組織も出て来た。特にこの銃の密造、改造は、上信越自然公園の汚点になってるよ」

「でも、きちんと報告したりしないといけないんですよね?農家の人が売っちゃったりあげちゃったりしてるってことですか?」

「自身が農業に従事してれば、命にかかわる問題なんだから手放さないだろ。でも、後継者がいない農地もかなりある。ああいう連中はそういうところに食い込んでくるのがうまいんだよ」

「何か怖いところなんですね。オオカミの密猟も結構ひどいんですか?」

「いや、これは意外にそうでもない。もちろん密猟者は懲りずに侵入してくるが、今世紀初頭がピークで、その後かなり減った。地域一体となった監視体制が整ったというのもあるが、直接の要因は病気だ」

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