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wO-LVes ~オオカミのいる日本~  作者: 海野遊路
第三章 『狼の巣』
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3. 〝時をかける少女〟

「時をかける少女」(筒井康隆)から

「さすが深夜先輩、すごいです!」

 電話を受け取る微笑の頬が紅潮し、そしてふと上を向く。

「あれ、だとすると、微笑は何て呼ばれるんですか?かっこいいのがいいな。復活するんだし、あ、『クイーンフェニックス』ってどうですか?できれば、『甦る貴婦人』にルビ振る感じで」

「ダサ」

「エ、エミちゃん?」

「クロノス。もう決まっているわ」

「クロ?えー?『ク』と『ス』しか合ってないじゃないですか?」

「良かったじゃん、微笑。大体合ってんじゃん」

「この場合のクロノスは古代ギリシアの時間の神。ゼウスの父親のクロノスとは別」

「どっちも知りませんし、『甦る貴婦人(クイーンフェニックス)』の方がいいです」

「水無瀬さんのウイルスは、修復と言ってもDNA修復のように他から材料を持ってきて補う、と言う形ではない。時間の巻き戻しのように元の形に戻ろうとする作用があるからこのような呼び名になった。これは私たちが決めたことじゃないわ。私たちのオルヴズと同じように」

「エミちゃん、かっこいいじゃない!」

「えー。微笑、もっと必殺技っぽいのが良かったな」

「はぁ?中二病か?」

「微笑、中二だもん!」

 萌の嘲笑に微笑が反発する。八島が笑いながらそれを制した。

「まあ、すぐ慣れるよ。それから砧」

「え?この状況で俺に何をしろと?」

「他の皆のように微笑さんに見せないと」

「いや、見せるほど大したことできないし」

「砧君!水無瀬さんに一方的に、そして高圧的に言っておいて、自分は説明しないで許されるわけないでしょ?」

「そーだそーだ。呉服サンの言う通り。空気読めよキモオタ」

「いや、説明はするよ。俺のウイルスの作用は圧縮だ。単位からパスカル」

「圧力?じゃあ、ダイヤモンドとか作れちゃうんですか?銃弾跳ね返せるんですか?」

「もちろん無理だ。ダイヤモンドには圧力だけじゃなくて熱も必要だし、そもそも俺が圧縮できるのは気体だけだ。それにダイヤが銃弾を跳ね返せるわけじゃないしな」

「えー」

「エミちゃん!そんな、あからさまにがっかりって顔しないで」

「深夜さん、耳打ちしてるつもりかもしれないけど、確実に砧にも聞こえてるよ」

「あ、す、すみません砧さん!」

「ミーナの落胆は仕方ない。事実だからな。恨みは忘れないけどな」

「うわ、器ちっちゃ」

「まあまあ、みんな。地味ではあるが、砧のパスカルも状況に応じて多様な使い道がある。それに、本当はもっと強力だよ。深夜さんも、他のみんなも」

「え、じゃあ、深夜先輩なら、銃弾跳ね返せちゃうんですか?」

「それは無理だよ。そもそも、普通の銃弾はほとんど鉛だし」

「てか、微笑は何でそんなに銃弾跳ね返すのにこだわるんだよ?」

「だってかっこいいじゃないですか?相手の攻撃を無効にして、更にカウンターでやっつけちゃうんですよ?」

 微笑がボクシングのジャブとストレートの真似をした。

「別に硬いから跳ね返せるとか、引力や斥力で方向を変える、というもんじゃないだろ、銃弾は。跳弾なら、角度によっては水面だって可能だ。もしどうしても撃った相手に銃弾を撃ち返したいなら、理屈の上では、こうやって」

 砧がそう言いながら指でアルファベットのUを横にした軌跡を描く。

「なるべく運動エネルギーを保存したままベクトルを変えられるような、カーブが緩くて摩擦の小さい半円筒形のものを使うべきだ。いや、銃弾は旋回運動してるから、壺みたいなものの方がいいか。そうだな、ノノなら練習すればいけるだろ?クレアも手元なら何とかならないか?」

「はぁ?」

「わ、私は!」

 萌が眉をひそめ、呉服が顔を紅潮させて立ち上がるが、電子音に遮られる。彼女は携帯電話を胸のポケットから取り出し、画面を見つめた。八島もズボンのポケットから電話を取り出し、ホワイトボードの文字を消した。

「『森』だ。説明の途中で悪いが、僕と呉服は抜ける。後は砧、頼む」

「え、俺?」

「くれぐれも否定的なことばかり言わないようにしなさいね」

「クレアが俺を否定するのはいいの?」

 呉服は答えず、砧をちらりと見ただけで鞄を手にする。そして、同じく鞄を持った八島と部室を出て行った。

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