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wO-LVes ~オオカミのいる日本~  作者: 海野遊路
終章 『ワンダフル・ライフ』
133/135

5. 〝ガラスのうさぎ〟

「ガラスのうさぎ」(高木敏子)から

 祈は答えず、視線を落とした。景清が空を見上げる。花びらが通りの反対側の病院の方へと飛んでいく。窓の向こう、上半身を起こした微笑の前でくるくると舞った。病室の扉が開き、深夜が入室する。

「エミちゃん」

 ベッドのそばの丸椅子に腰かけ、微笑に語り掛ける。

「起き上がれるようになって良かった」

 微笑が無言でこちらを向く。深夜はその手に左手を添え、自分の右目の眉のあたりに導く。

「ほら、真昼の目だよ」

 それから自分の右手に寄せる。

「真昼の右手」

 そして制服のスカートの上から自分の膝に触れさせる。

「真昼の右足だよ」

「いいえ、深夜先輩の足です。深夜先輩の手で、深夜先輩の目です」

「エミちゃん」

「真昼先輩が確かに生きてる、目と、手と、足です」

「エミちゃん」

 深夜の声が震えた。

「泣いちゃダメです」

 俯く深夜の肩に微笑が手を添える。

「涙が出ないことが、真昼先輩の生きた、生きてる証なら、深夜先輩は泣いちゃだめです。これからもずっと」

「エミちゃん?」

「微笑がきっと、深夜先輩の心の中も癒してあげます。傷を負う前の笑顔が戻るように、ゆっくりかもしれないけど、必ず。だって微笑は、甦る貴婦人(クイーンフェニックス)ですから」

「うん、うん」

 深夜が俯いたまま頷く。

「私、泣かないよ。泣かない」

 部屋のカーテンが揺れる。

「泣かないで、真昼の分も歩いていくよ。真昼がくれた目で見て、真昼がくれた手で壁を壊して、真昼がくれた足で立って」

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