4. 〝ZOROASTER〟
「ZOROASTER」 (Encyclopaedia Iranica)から
桜の花びらが舞い上がり、本堂を越える。その下、墓地の一角で手を合わせる祈が、ふと顔を上げて振り返る。
「やっとお会いできました」
「静馬君」
「お久しぶりです、先生」
花束を抱えた制服姿の景清が頭を下げる。
「どうしてここが?」
「ある人が教えてくれました。司馬兄さんとは全く違うタイプなのに、でも、どこか似ている人が」
「そう」と祈が俯いた。
「ごめんなさいね、司馬が、あんな」
「ずっと探していました。ネストさぼって、家も、職場も、心当たりがあるところは全部。墓地も、先生のご自宅や司馬兄さんのアパートのある軽井沢を中心に探してたんですが、まさかこちらだったとは」
「事件があってから、各方面へのお詫びとご挨拶で忙しくてね。それに、静馬君にあわせる顔もなかったし。あんなことになって、本当に申し訳なくて」
景清は答えず、墓石を見ながら訊いた。
「例の動画はご覧になりましたか?」
「一応。ずっと見てるのは辛いから、声だけ。でも、何の言い訳にもならないから」
「あれだって、俺は信じてません」
「静馬君?」
「だって、司馬兄さんが、私利私欲にまみれた男の口車に乗るほど愚かであるはずがありませんから」
祈は無言で墓標を見つめている。
「もちろん、どんな意図があれ、司馬兄さんは罪を犯しました。無関係の人たちを怯えさせたことは許せません。例えそれが、誰かを、大勢を救うためのものであっても」
「ええ」
「でも、俺が、誰よりも好きな司馬兄さんに対して憤りを覚えることができるのは、司馬兄さんが俺に、『そういう人間であれ』と教えてくれたからです。そして、いつもそういう背中を見せてくれたからです」
祈が俯く。景清が卒塔婆に向かう。
「司馬兄さんには名前が被るからって理由で『キヨ』って呼ばれて。でも、それも嬉しくて。ヒンズー教のシヴァ神は、破壊と創造を司るらしいです。司馬兄さんも壊してくれましたから。俺たちを守り、同時に閉じ込めていたぶ厚い殻を」
「静馬君」
「俺にとって、司馬兄さんはいつまでもヒーローで、そして憧れなんです」