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wO-LVes ~オオカミのいる日本~  作者: 海野遊路
終章 『ワンダフル・ライフ』
129/135

1. 〝地蔵和讃〟

「地蔵和讃」(地蔵信仰の賛歌)から

「気持ちいい風」


 サンラインを西に走るセダンの窓を開け、巴が呟く。


「浸ってるところ悪いが、俺、花粉症なんで窓閉めてくれ」

「最悪」

 巴が窓を閉めて呟く。ハンドルを握る田村が横目で見る。

「何か、この間から俺の扱い変わってない?ちょっと前はもう少し敬意をもって接してくれていたような」

「敬意に値しないからです。私を騙したことは一生忘れません。あんなに偉そうに説教したくせに」

「数年経ったら俺のことなんて忘れるんだからいいじゃない」

「田村さんのことは忘れても、今回の一連の事件は忘れないと思います」

「俺のことは否定しないんだ?」

「結局、箙司馬と安宅教頭は、銃の密造工場を一つ潰して、道成寺九重彦の性急な野望を阻止し、月の裏側を見せると同時にウルヴズ問題を表面化させた。本来警察の仕事の部分も含めて、我々は皆出し抜かれたんですから、これは屈辱的ですよ」

「じゃあ、何で笑ってるの?風だけじゃなくて、敗北も気持ちいいの?」

「田村さんと一緒にしないで下さい」

「巴がアレなのは別として」

「アレって何ですか?」

「道成寺九重彦って、どこまで本気だったんだろうね?それに、道成寺文部科学大臣も」

「どこまで、とは?」

「二人が単に金や権力のためにウルヴズを利用しようとしたとは思えない。そんなことをしなくても、両者はそれらを十分持っている。かといって、この結末が予定通りという感じでもない。一体、彼らは何を目指し、箙司馬や檜垣博士と、どこまで情報を共有していたんだろうね」

「はい」

 巴が頷いた。

「でも、目的は違えど、二人の掌の上で踊らされていたのは、私たちも同じですから」

「まあね、でも」

 田村が笑った。

「まあでも、少なくとも檜垣博士や箙司馬ではできない、俺たちじゃなきゃできないこともある。何と言っても、俺たちは今生きてるんだから」

「ええ」


 巴が一言呟き、押し黙った。


「あ、そう言えば、『月は見ている』のクエビコって、やっぱ道成寺九重彦なの?」

「ある意味そうですし、ある意味違うと思います。あれはおそらくネットワーク、そしてそれを支える世界中のサーバーです」

 通常営業を再開した信州銀行浅麓支店を通り過ぎる。

「同じ場所にいて、世界中を見通す存在。でもそれは、そこにじっと佇んでいるからできることなのではないでしょうか?そして何より、更に機動力まで得て世界を支配しよう、なんて思ったりしない。ただただ世界を見守っているからこそ」


 しゃくなげ公園入口の看板が見える。


「氷室さんが好きだった、あの大きなお地蔵様のように」

『ワンダフル・ライフ』(スティーヴン・ジェイ・グールド)から

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