3. 〝ライアーライアー〟
「ライアーライアー」(トム・シャドヤック監督 1997年のアメリカ映画)から
一陽がマウスを操作し、画面を見つめる。そしてモニターを百八十度回し、安宅に向けた。
「こ、これはどういうことですか?」
「せ、生徒たちは正しい。わ、私のような小物に、防弾チョッキなど、不要、です」
「教頭、先生?」
一陽が安宅に駆け寄り、上着を開く。シャツにはすでに血が滲み始めている。
「防弾チョッキは?」
「薬品で溶かされて、廊下に、落ちていますよ。設定上」
「ど、どうして?」
「朝礼の事件の目的は三つ。一つ目はテロの演出。これはご想像の通りです。二つ目は、校長のウイルスの作用、正確さの確認。あの時あなたは、銃のポインターが私に向いていることに気付き、合成皮革のコートから硬質樹脂の筒を作り出し、私から銃弾を正確に逸らした。ただ、引き金を引く前に、逸らされた銃弾に当たるよう私自身が半歩移動した、というだけです」
「やっぱり」
「そしてもう三つ目は、私が常に防弾チョッキを着用しているとあなたに思い込ませること」
「そんな」
「卑劣な檜垣鏡三は、善良な安宅修二という人物になりすまし、ウルヴズや〝月の裏側〟を騙し、利用し、ハウルズの配送の落札を契機に運送業界という現実世界での統一を目論む旧知の道成寺九重彦と共謀して利権を貪ろうとし、その報いを受ける」
「それが、先生や九重彦さんたちが描いた筋書きですか?」
「八重子さんや九重彦君は、この結末を知りません。彼らはただ、彼らなりに子供たちを守ろうとしただけです。結末は違えど、二人とも、自分たちが憎まれ役になることを覚悟して」
安宅が声を繋いでいく。
「さ、殺人事件の動画など、すぐに削除されます。しかし、ネット上の動画はヒドラと同じだ。首を一つ切れば二つになって生えてくる。コピーされた動画は増殖を続け、すぐに対処療法では追いつかなくなるでしょう。そうすれば政府も知らないふりはできない。文科省が進めている特別保護教育法令も白日の下に晒されるはずです」
「教頭先生の目的は、その阻止ですか?」
「鑑がつないだ命は、一人に託され、歩き続けています。もちろん、その仲間たちも。その場を整備するのが、我々の責務です。雨月校長のお父様が、経営悪化を装い、雨月学園の公立化を進めたように」
「まさか」
「お父様もまた、命を救うためとはいえ娘に、子供たちに重い枷を課してしまったことを悔いていた。潤沢だった学園の資金で、〝村〟やアハトなどの法整備を進める八重子さんたちをバックアップした。同時に身売りを装い、受け皿の一つとして現在の雨月学園御代田中等教育学校を作った。あなたも薄々とは感じていたと思いますが、ウルヴズが十分成長し、自分の足で歩けるまでの卵殻となるシステムを作った中心人物の一人が、あなたのお父様です」