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wO-LVes ~オオカミのいる日本~  作者: 海野遊路
第十四章 『死者たちの回廊』
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2. 〝真実の行方〟

「真実の行方」(グレゴリー・ホブリット監督 1996年のアメリカ映画)


原作は未読です。


「これを信じるか信じないかはエマの自由だが、俺とデンさんが駆け付けた時、エマには既に応急処置がなされていた。急いで二人を炎から引き離した直後、小規模な爆発が起きて、半分溶けかかった真昼のケータイが飛び出て来た。念のため回収したが壊れて再生できなかった。デンさんが地道に探した代替部品を使って、直ったのは一昨日だ」

「砧、さん。伝、さん?」

「救急隊員が来るまで、真昼はずっと『深夜には言わないで』と繰り返していた。担架に乗せられ、声が出なくなってからは、動く右手で。デンさんと俺は真昼の懇願を聞き入れた。デンさんは真昼への信義のために。そして俺は、エマを利用するために」

「お兄ちゃん、キモオタ」

「知らなかったのはエマとノノだけじゃない。教頭がクレアたちにどこまで話してるのか、俺は知らないが、本当のことを聞いたとしても最近だろ?」

「景清が教頭に絵馬君を殺したのかって聞いて、教頭が肯定した時、景清が言ったわ。『違う、あんたじゃねえ。自分の目的のために他者を排除する奴は、そんな目をしてねえ』って」

「じゃあ、私は」

 深夜が呉服を見た。

「景清さんを斃してでも教頭先生に会いに行こうとした私は?」

「絵馬さん」

「暴力と恐怖で教頭先生を排除しようとした真昼は?」

「深夜」

「だめだ、深夜さん!」

 八島が砧から離れ、深夜に向かって駆けだす。呉服も萌を座らせ、八島の後を追う。

「深夜さん、落ち着けっ!」

「自暴自棄にならないで!」

 駆け寄る二人に、深夜が回し蹴りを放つ。呉服の鼻先をかすめた右足を八島が腕で受け止めた。景清が叫ぶ。

「八島!呉服!息を止めろ!」

 しかし二人は喉に手をやり、崩れ落ちる。

「砧!」

「今やってるよ。でも、真昼程の効果は期待するな」

 八島と呉服が大きく息を吸い込み、四つん這いで体を支える。

「しん、や?」

「ごめんね、萌ちゃん」

 萌の問い掛けに深夜が呟く。その前方の空中で三枚の金属片が回転している。

「深夜!だめ!」

 駆けだそうとした萌の足がもつれ、倒れるが、更に顔を上げて這いずりながら深夜に向かう。

「絵馬、やめろ」

 景清が立ち上がるが躓いて倒れる。八島と呉服はいまだ肩で息をし、かろうじて深夜を見上げている。

「真昼、ごめんね」

 深夜が呟く。

「右目も、右手も、右足も、真昼に返すよ」

 金属片が高速で回転しながら飛んでくる。深夜が目を閉じる。

甦る貴婦人(クイーンフェニックス)!」

 破裂音に重なる声。深夜が目を開けると、微笑が背を向けて立っていた。ところどころ欠けたコンクリートの盾を支えている。

「真昼先輩の体の一部をもらった深夜先輩はずるいです」

 微笑が振り返る。

「でも、いまさらそれを捨てるのはもっとだめです。だってそれは、真昼先輩が生きてた証拠だから」

 そして微笑み、倒れこんだ。深夜が慌てて抱き止める。落としたコンクリートの盾から金属片が突き出ていた。腕の中の微笑が呟く。

「エへへ、一枚、間に合いませんでした」

 腹部の毛皮が避け、血が滲み始める。

「エミちゃん!」

 深夜が叫ぶが、微笑はもう答えない。

「エミちゃん!」

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