1. 〝ブラッド・ダイヤモンド〟
「ブラッド・ダイヤモンド」(エドワード・ズウィック監督 2006年のアメリカ映画)から
膝をついた一陽が重い息を漏らした。安宅が低く呻き、後方によろけ、壁にもたれかかる。
「転写はあくまで過程です。私のオルヴズは、材料とコピー元になる物質があれば、それを任意の形、大きさに複製することができる。合成樹脂なら合成樹脂を」
自身のコートの欠けたポケットを見下ろす。
「合金なら合金を。時には材料となる物質を破壊して」
倒れた安宅の傍らには、金庫に空いた穴と、その前に落ちた合金の塊。
「そして、ダイヤモンドならダイヤモンドを」
左手の指輪が光る。一陽が立ち上がり、薄明りにきらめく花瓶状の器を傍らの穴の開いた机の上に置いた。
「私のウイルスが司るのは『自己複製』です」
安宅が目を見開き、そのまま床に崩れ落ちた。
「ウルヴズは、武力としての価値は高くありません。産業、経済、医療などにとって使い方次第で大きな脅威にも武器にもなり得るのに、身を守る手段としての力が釣り合っていません。だから私も、私のウイルスの本当の作用を徹底的に隠してきました」
一陽はそう言いながら荒い息の安宅を見下ろす。
「防弾チョッキがあっても、この距離で打ち返した銃弾を受けたのですからすぐには動けないはずです。そのまま安静にしていてください。警察と救急に連絡を取ります」
安宅が机の上のパソコンを目線だけで見た。一陽が回り込み、キーボードを操作する。パソコンの画面は動かない。逡巡の後、モニターのスイッチを押すと画面が立ち上がった。
「『動画のアップロードに、成功しました』?」
『死者たちの回廊』(小池寿子)から