11. 〝饗宴〟
「饗宴」(プラトン)から
砂埃の中からセルモーターを回す音が聴こえる。エンジンが控えめな音を立て始める。
「何するつもりだ」
その前方に立つ影が言う。
「バイクをお借りします。そして教頭先生にお会いしに行きます」
景清のバイクにまたがった深夜が答える。
「会ってどうする?」
「わかりません。でも、会わなきゃいけないんです」
「他の奴らは?砧はともかく、おめえの弟への気持ちのためにスタンガンを撃たれた水無瀬は?今、野宮はおめーのために呉服を抑えてるんだぜ?」
「そ、それは」
「おめーのために戦ってる友達を残して一人で行くのか?」
「それでも、それでも私は行かなきゃいけないんです!真昼のために!」
「自分のためだろ?」
「聞きたくありません!」
深夜がアクセルを回した。バイクが入口に向かって走り出す。景清が深夜に向かって駆け出し、すれ違いざまに前輪を手刀で切った。切断された前輪のタイヤが外れ、フロントフォークに絡まる。後輪が浮き上がって転倒する直前、深夜が飛び降りて地面に転がった。
「やりやがったな?」
景清が振り返る。ゴーグルがない。
「これは砧の指示か?」
「そんなことどうでもいいです」
深夜が手にした景清のゴーグルを投げ捨てた。
「私はただ、真実を知りたいだけです。あの時、何があったかを。真昼がなぜ死ななきゃいけなかったのかを」
「他者を排除してでもか?友達を見捨ててでもか?」
「うるさいですっ!」
深夜が叫ぶ。地面に落ちていた金属片が数枚景清を急襲し、霧散する。同時に駆け出した深夜の蹴りを、目を開けた景清がかろうじてかわす。深夜が半歩下がり、身構える。
「ゴーグルがない今、顔の周りでウイルスを使う時には目を閉じてなきゃいけない分、景清さんが不利です。退いてください。私を行かせてください」
「わりーがそれはできねー。大体、バイクもタイヤがお釈迦、車はパンク。どうやってオオカミだらけの山を下りる気だ?」
「どんな方法でもいいです。走ってでも、這ってでも」
「教頭がどこにいるかも知らねーのに?」
「探します!」
深夜がこぶしを握り締め、景清を攻撃する。
「どうしても!何があっても!教頭先生に会いに行かないと」
しかしその全てを、景清は僅かな動きで避ける。時折金属片を飛ばしても、伸ばした手で鉄粉にされる。息を切らし始めた深夜が、景清を見て動きを止める。
「なんでそんな悲しそうな顔をするんですか?何をしても無駄な私がそんなに哀れですか?」
景清は答えない。
「私を、真昼をバカにしないでくださいっ!」
深夜が叫び、右足を蹴りだす。やはりかわした景清の表情が歪む。




