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wO-LVes ~オオカミのいる日本~  作者: 海野遊路
第十三章 『存在しなかった惑星』
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11. 〝饗宴〟

「饗宴」(プラトン)から

 砂埃の中からセルモーターを回す音が聴こえる。エンジンが控えめな音を立て始める。

「何するつもりだ」

 その前方に立つ影が言う。

「バイクをお借りします。そして教頭先生にお会いしに行きます」

 景清のバイクにまたがった深夜が答える。

「会ってどうする?」

「わかりません。でも、会わなきゃいけないんです」

「他の奴らは?砧はともかく、おめえの弟への気持ちのためにスタンガンを撃たれた水無瀬は?今、野宮はおめーのために呉服を抑えてるんだぜ?」

「そ、それは」

「おめーのために戦ってる友達を残して一人で行くのか?」

「それでも、それでも私は行かなきゃいけないんです!真昼のために!」

「自分のためだろ?」

「聞きたくありません!」

 深夜がアクセルを回した。バイクが入口に向かって走り出す。景清が深夜に向かって駆け出し、すれ違いざまに前輪を手刀で切った。切断された前輪のタイヤが外れ、フロントフォークに絡まる。後輪が浮き上がって転倒する直前、深夜が飛び降りて地面に転がった。

「やりやがったな?」

 景清が振り返る。ゴーグルがない。

「これは砧の指示か?」

「そんなことどうでもいいです」

 深夜が手にした景清のゴーグルを投げ捨てた。

「私はただ、真実を知りたいだけです。あの時、何があったかを。真昼がなぜ死ななきゃいけなかったのかを」

「他者を排除してでもか?友達を見捨ててでもか?」

「うるさいですっ!」

 深夜が叫ぶ。地面に落ちていた金属片が数枚景清を急襲し、霧散する。同時に駆け出した深夜の蹴りを、目を開けた景清がかろうじてかわす。深夜が半歩下がり、身構える。

「ゴーグルがない今、顔の周りでウイルスを使う時には目を閉じてなきゃいけない分、景清さんが不利です。退いてください。私を行かせてください」

「わりーがそれはできねー。大体、バイクもタイヤがお釈迦、車はパンク。どうやってオオカミだらけの山を下りる気だ?」

「どんな方法でもいいです。走ってでも、這ってでも」

「教頭がどこにいるかも知らねーのに?」

「探します!」

 深夜がこぶしを握り締め、景清を攻撃する。

「どうしても!何があっても!教頭先生に会いに行かないと」

 しかしその全てを、景清は僅かな動きで避ける。時折金属片を飛ばしても、伸ばした手で鉄粉にされる。息を切らし始めた深夜が、景清を見て動きを止める。

「なんでそんな悲しそうな顔をするんですか?何をしても無駄な私がそんなに哀れですか?」

 景清は答えない。

「私を、真昼をバカにしないでくださいっ!」

 深夜が叫び、右足を蹴りだす。やはりかわした景清の表情が歪む。

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