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wO-LVes ~オオカミのいる日本~  作者: 海野遊路
第十三章 『存在しなかった惑星』
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10. 〝ターミネーター〟

「ターミネーター」(ジェームズ・キャメロン監督 1984年のアメリカ映画)から

 左の前輪にハンドルを取られながら坂を下る。本館を迂回し、左に大きく曲がると、ヘッドライトがウルヴズを照らし出した。車が停止する。ヘッドライトは消え、メーターも0に戻る。

「あ、おい、開けろ!」

 車内の砧がドアを叩きながら叫ぶ。周囲をブルドーザーやフォークリフト、そして双腕式ショベルカーが取り囲む。

「降参! 降参だから開けてくれ!」

 砧の怒声にドアのロックが解除された。

「俺一人に重機、しかもこんな最新式の奴こんなに要らないだろ?」

「君には用心し過ぎってことはないよ」

呟きながらEVから降りた砧に八島が言う。

「で、パンクしたままどこまで行くつもりだったんだ?」

「とりあえずどこかタイヤ交換できる場所まで。このタイヤはもったいないがもうダメだろ」

 砧がドアを音を立てて閉め、タイヤを見ながら答える。

「あーあ、ホイールも結構傷んでるぞ。どうするんだよ、来週からの配達?」

「もうそっちの心配か。それより、深夜さんや萌さんたちはどうするつもりだ? 彼女たちを見捨てるのか?」

「知らないよ。奴らは奴らで何とかするだろ?」

「ここまで来たのに?」

「俺はノノに脅迫されて来ただけだ。後のことは、望んで来たエマたちの問題だ」

「そうか。それを聞いて安心したよ。砧が、『乗り掛かった舟だから』と、深夜さんたちに味方するような俗物でなくて」

「それじゃ帰らせてくれ」

「いや、そうはいかない。砧が用はなくても、僕は砧に用がある」

 ライトが光り、EVが八島の方に向かって走り出す。そして隣に停止させたEVのボンネットに手を置いた。破裂音が響き、八島のフードが揺れる。

「悪いね。一応その対策もしている」

 八島が自分の耳を指さした。

「鼓膜にダメージがあるような音量は自動的にカットする。小さな石が落ちた程度にしか聴こえない」

「それも教頭からか?」

「まあね。学ぶ人が多いよ、あの人からは」

 八島がEVのドアに手をかけた。

「例えば、自分だけ逃げると見せかけて誰かを車の中に隠れさせておく、とかね」

言いかけた八島の体が、突然開いたドアに弾き飛ばされた。顔を上げるとすでに砧はいない。ヒビの入った眼鏡を外す。みぞれ交じりになった雨の中で周囲を見回す。

「くっ。降りるときに圧縮した空気を充満させたのか? うかつだった」

 八島がマントから手帳を取り出した。

「でも、砧が相手で僕が二次策を持たないと思うのか?」

「ページめくるの大変だろ?雨も強くなってきたし」

 建物の陰からフォークリフトが飛び出てきた。

「デンさん情報で化石燃料の旧式もあるのはわかってた。こっちは古すぎて図面ないだろ?」

「なっ?」

「それに、当然その手帳を読むのも邪魔させてもらう」

 破裂音とともに手帳のページがめくれ、数枚がちぎれて飛んだ。

「オームの最大の利点は、一度に複数の機器を扱えることだ。でも、ここにある重機の回路図全て覚えるなんて、箙司馬レベルの記憶力がないと無理だ」

 砧がギアを引き、アクセルを踏んだ。フォークリフトが唸り声をあげながら後退する。

「逃すわけないだろ?」

 八島が駆け出し、動き始めたショベルカーのキャタピラカバーに飛び乗った。エンジン音を上げるフォークリフトを追いながら二つのアームが攻撃をしかける。砧が後退しながら爪を操作してそれを防ぐ。アームが再度持ち上がり、バケットがフォークリフトを襲う。寸前で回避した砧が、ハンドルを切って爪でアームを横に弾いた。キャタピラカバーの上でバランスを崩した八島が叫ぶ。

「じゃっ、邪魔をするな!」

「邪魔してるのは八島だろ?俺なんかに構ってる暇があったらクレアか景清の加勢に行けよ」

「僕が用があるのは深夜さんたちではない。君だ」

「ノノに『キモっ』とか言われるぞ」

「何とでも言え。君がいくら抵抗したところで、君が詰んでることに変わりない」

 回り込んできたブルドーザーのブレードが砧のフォークリフトの側面に激突した。車体は横転し、砧が地面に投げ出される。

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