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wO-LVes ~オオカミのいる日本~  作者: 海野遊路
第十三章 『存在しなかった惑星』
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8. 〝チェンジリング〟

「チェンジリング」(クリント・イーストウッド監督 2008年のアメリカ映画)から

元はヨーロッパの伝承、「とりかえっこ」です。

「野宮萌さんのお兄さんですか?彼には、今日まで警察の目を私からそらすためのスケープゴートになってもらいましたが」


『檜垣博士については、医学部卒業後、医療技術が医学に追いついていないことを痛感し、再度工学部に入り直したなんて資料もあった。その写真の十年近く前に、道成寺博士たちのニホンオオカミクローン計画に参加。噴火後は母校の東北大学に戻って研究を続けていたらしいが、冥王症の治療薬開発の際には請われてまた道成寺夫妻のチームに加わっているようだ。インタビューでは、北軽井沢の雰囲気が気に入って、噴火後も毎年息子さんと訪れてるって言ってる。もしかしたら、オオカミのことが気になっていたのかもしれないけど。そしてこれが、その翌年の群馬の新聞記事のコピー。檜垣博士のご子息、当時は東京の全寮制の高校に通っていた高校一年の鑑君が、火事の現場から乳児二人を助けて亡くなっている。それがマー君とシンちゃんだ。檜垣博士はその数年後から行方が分からなくなっている』


「先生の正体を、野宮君を通して私が知ることも予定通りだったと?」


『安宅先生については砧君が調べてくれた。五十代半ばまでは本当に教育熱心で素晴らしい人だったのに、ご家族を不幸な事故で亡くし、しばらく失踪していて、帰ってきてからは人が変わったようになった、ということらしい。周囲の人たちも同情と哀れみから、腫れ物に触るような感じになって行った、ということだって。もちろん、真相はわからないけど』


「いずれ私から申し上げるつもりでもありましたし。私の目的を校長にご理解いただくために」


『あの事故では、俺と砧君が応急処置をしたことになっているけど、当時はもちろん、今だって俺にそんな高等な医療技術はない。俺たちが駆け付けた時には、すでにシンちゃんには誰かによる応急処置がなされていた。俺たちはその功績を横取りしただけだ。しかもその息子さんは、マー君たちきょうだいを命と引き換えに救ってくれた恩人なのに』


「ご子息様のことですか?確かに気の毒でしたけれども、だからと言って」

「それだけではありません」

 安宅の足音が一歩近づく。

「ウルヴズはテイアの成功の陰に隠れた汚点であり、同時に特異点でもある。政府はこの特異点を現行の世界に組み込むため、解錠、施錠の仕組みを作る必要があった。それはまた、オルフェウスを作り出した道成寺博士夫妻にとっても、冥王症に罹患し、治験も兼ねたオルフェウスの投与によりウルヴズとなった息子を持つ私にとっても必要悪でした。これによりウルヴズは、一定の不自由と引き換えに自由な日常を送れるようになったのですから」

「それはもちろん不幸なことです。でも」

「施錠されていなければ、鑑は死なずに済んだでしょう。鍵ゆえ、ウイルスの放出量は制限され、鑑には赤子二人を助けられる程度のウイルスしか使えなかった。しかしそれは、鑑の生き方です。自分の命と引き換えに二つの小さな命を救ったのであれば、それはきっと意味のあったことだと。少なくとも、そう信じていました」

 更に足音が近づく。

「不幸な安宅氏の名を騙り、教育委員会を経て当校に赴任したのは、鑑が救った二人の命の成長を見つめるためです。そして彼らが、鑑が生きられなかったその先を成長してくれるよう望んでいました。幸い、野宮伝君という兄の代わりに会い、その妹の萌さんや砧君という友人を得て、二人は真っ直ぐに成長してくれました。あの事件までは」

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