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wO-LVes ~オオカミのいる日本~  作者: 海野遊路
第十三章 『存在しなかった惑星』
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6. 〝ウイルスベクターとは何か?〟

「ウイルスベクターとは何か?」 "What are Viral Vectors?" (Tomislav Meštrović)

「News Life Sciences」の記事から

https://www.news-medical.net/life-sciences/What-are-Viral-Vectors.aspx

下の方の"Read in:"で「日本語」を選ぶと、機械翻訳ですが日本語にしてくれます。専門用語はいちいち辞書を引かなくてすみます。

 マスターキーで教頭室に入り、書棚に歩み寄る。扉を開け、金庫の前にしゃがむ。


『もしもし、電話大丈夫?』

『うん。スコラ御代田の近くで待機してる。雨月さんこそ、もうそろそろ会場入りしなきゃいけないんじゃないの?』

『そうね、後三十分くらいで。さっきは資料ありがとう』

『何か余計なことだったかもしれないけど』

『ねえ、なぜ、私にこれを渡したの?』

『なぜって?』

『例えば、私が何かを画策している、とは考えなかったの?』

『え?あ、ああ、そういえばそうだよね。考えもしなかったよ。さすがは雨月さんだね』


 自身の肩に手を置き、「解錠」と呟く。


『おもしろいね、野宮君は』

『考えが足りないだけだよ』

『私は』


 鉄の扉に手をそえ、指でなぞる。


『私も、ウルヴズです』


 重く硬質な音が暗い部屋に響く。


『驚かないのね?』。

『いや、ビビってるよ。それ、俺に言っていいの?』

『村が規定しているのは、あくまでウルヴズではない者たちのことだけ。この場合、心配すべきなのは野宮くん本人だよ』

『まあ、それも今更だけどね』

『そうね。実際には、正体を知った段階で感染と認められるわけじゃない。それを第三者に知られた場合、っていう見えない注釈付きのザル法だしそれに、ウルヴズには盗聴防止用の回線が与えられているから、その点に関しては、あまり心配いらないわ』

『そう。それなら良かったよ。ほら、俺って小市民だから。で、雨月さんは大丈夫なの?』

『だから』

『例え雨月さんには直接被害がなかったとしても、俺を起点にパニックが起きる可能性を考えないわけじゃないでしょ?あの銀行強盗の犯人、箙司馬君が目論んだような爆発的な広がりはないかもしれないけど、いったん拡散すれば、最終的な到達地点にそれほど差はないかと』

『それなら考えないわ。考えたら言わない。その可能性はないと信じたから野宮君に言ったんだよ。野宮君が私を信じてくれたように』

『どういうこと?』

『だって野宮君は、私が〝月の裏側〟の黒幕でも協力者でもないと思ったから話をしてくれたんでしょ?本当なら疑われても仕方ないのに。GNロジの道成寺門九重彦は、私の元夫だし』


 庫内に手を差し入れる。


『驚かないね。知ってたの?』

『つい最近ね。〝月の裏側〟の一人から聞いた』

『そう。気になる?』

『いや、俺が口を出すようなことじゃないし』

『そう。でも、じゃあ、なおさらなぜ私に話をしてくれたの?』

『まあ、あえて言うなら、雨月さんが雨月さんだからかな』

『何それ?』


 そして取り出した拳銃に口づけする。


『いや、何というか。ま、まあ、それはともかく、どうするの、これから?』

『特にどうもしないわ。これからも私は警察や行政に協力するし、一方で校長としての職務も全うする。私も結局、歯車でしかないし』


 シリンダーを開け、弾丸を確認する。


『私が言うのもなんだけど、ウイルスのすべてが害ではないわ。進化に役立っているという説もある。ウイルスベクターは医療現場で活躍している。そして、言うなれば、教師だって知識を媒介するベクターだし。だから私は、フィルターをかけずに伝えようと思う。だって、それが正しいか否か、必要かどうかの判断は、受け継いだ側がすべきことだから』


「写真の表情を見る限り、チームを大事にする真面目な人にしか見えないって、野宮君が言っていました」

 一陽が立ち上がり、肩越しに背後を見た。

「それなのになぜ、こんなことをなさったのですか?教頭先生。いいえ、檜垣鏡三博士」

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