4. 〝遺伝子の運び屋〟
「遺伝子の運び屋「ウイルスベクター」」(脳科学研究戦略推進プログラム事務局発行)から
http://www.nips.ac.jp/srpbs/media/newsletter/Vol4.pdf
「うん。気分が悪い生徒たちは救急車で病院に搬送された。残りの子たちは点呼も済んで、各先生の誘導や親御さんに迎えに来てもらって帰宅し、スコラ御代田にはもう学校関係者は誰もいない。現場は警察にお任せした。私は、田村警部の指示で学校に戻ってる」
校長室の窓から、一陽が曇りかけた空を眺める。
「だからこっちは大丈夫。野宮君も気をつけてね」
そして彼女は携帯電話をしまい、机の上を見た。墓参りの帰路、車の中で伝から譲り受けたファイルを一瞥する。
『白衣を着た人の集合写真?どこかの研究室みたいだけど、これがどうしたの?』
『その右上の人』
『どれ?』
『その隣』
『え?』
もう一度そのファイルを開き、写真を見直す。
『まさか』
『ね?俺もびっくりしたよ。それから、これも』
『USBメモリー?』
『マー君が使っていたサブの携帯電話は、中学入学時に俺があげたもので、当時でさえかなり古かったんだけど、事故で半分溶けて壊れたのを、砧君が密かに回収していた。キャリアでは部品はないし、内容がわからないからデータ復旧サービスも頼めない。俺が仕事で東京やらどこやらに行くたびに中古店などでジャンクを探し、必要なパーツを買って、砧君が修理を続けた。ようやく吸い上げることのできた音声が、そのUSBメモリーに入ってる。雨月さんにはぜひ聴いてみてほしい』
『野宮君、あなた、何者なの?』
『俺はただの運転手、どこにでもいる町の運び屋だよ』
『でも』
『そして、マー君の遺志を受け継ぎ、萌やシンちゃん達に伝える兄でもある』