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wO-LVes ~オオカミのいる日本~  作者: 海野遊路
第十二章 『くぐつ名義考』
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7. 〝華氏911〟

「華氏911」(マイケル・ムーア監督 2004年のアメリカ映画)

※真偽はともかく、第十一章-3の節タイトルで触れた「ニュースの真相」と合わせて見ると、背景がもう少し良くわかるかもしれません。

「田村さん!」

 深夜の呼びかけに田村が振り返った。

「君は? 無事だったようで何よりだ」

「お願いします、鍵を外してください! 友達が大変なんです!」

 しかし田村が深夜を見下ろし、言った。

「悪いが何を言ってるかわからない。そんなことより、君も早く避難した方がいい」

 深夜は田村を見つめ返し、それから「すみません」とうなだれて背を向けた。萌が田村を睨みながら深夜の背に手を添えた。

「ポリ公なんて結局保身かよ」

「保身は悪くないだろ?じゃ、俺はこれで」

「鍵がかかっていてもいいです。とにかく車をお願いします!」

「運転ならデンさんに頼めよ。撤収はどう考えても延期だし、ちょうど空いてるだろ?」

「伝さんは災害時の協定で多分今は動けないし、迷惑をかけられない」

「俺だって迷惑だけど」

「僕が運転する」

「八島さん?まだ免許ありませんよね?」

「まだ仮免だけど、今は法律より微笑さんの方が心配だ」

「そうだな、じゃあよろしく。はい、車の鍵。明け方までにネストの裏に戻しておいてくれ。鍵は俺の机の上でいい。配達に間に合うように帰れよ」

 砧が背を向けた。深夜がその前に回り込み、その手を握った。

「砧さん!お願いです!送ってくれるだけでいいんです!八島さんの気持ちは嬉しいけど、でも、こんな状況で、途中で免許提示を求められたら」

 そしてうなだれる。そのつむじを見つめていた砧が口を開いた。

「わかったから手を放せ」

「砧さん」

「深夜!手を放しちゃダメ!こいつそうやって安心させて逃げる気だよ」

「さすがだな、ノノ」

 砧が笑う。萌が砧の背後に回り、耳元で囁く。

「おい、キモオタ。これが何かわかってるだろ?あんたがあたしによこしたんだからね」

「萌ちゃん、それ?」

 砧の背中に押し当てた萌の右手を見て、深夜が目を見開く。萌が横目で深夜に笑う。

「深夜は気にしなくていいよ」

「萌さん?」

「いいから! 八島クンも黙ってて!」

 萌に促され、砧が歩き始める。無人の搬入車両車用駐車場に回ると、砧が運転席、萌がその真後ろに座った。

「深夜、八島クン、乗りな。乗ったら毛皮を着な」

 全員が乗り込むと、三人が荷室から毛皮を取り出し、急いで身にまとう。

「キモオタ、あんたもクロスプランツくらい着とけ。変な真似したら撃つからな」

 萌がマントを投げる。砧が背後を伺いながらフードを被り、エンジンをかける。走り出そうとすると、正面に制止する姿が見えた。

「田村さん」

 深夜が呟く。萌が砧に「余計なこと言うなよ」と囁いた。砧は無言で車を停止させ、パワーウィンドウのスイッチを押した。三分の一くらいのところで「それ以上開けるな」という声が聞こえた。

「田村さん?」

「ガウスはいるか?」

「は、はい」

 助手席の背後の深夜が手を上げると、田村がそちらに回った。深夜も窓を三分の一ほど開く。

「ウルヴズが乗用車に乗る時点で問題だぞ」

「すみません」

「まあでも、この混乱だし、ごまかせるだろ。むしろこれから始まる検問の方が気になるよ」

 そしてガウスの肩に手を置く。

「他にもウルヴズがいたら鍵を開ける。間接接触でもいい」

 八島と萌が顔を見合わせる。

「それが誰かわからなければ感染の要素はない。車のナンバーは見えなかったことにする」

 深夜が萌の肩に手を伸ばした。八島が振り返って右手で深夜の腕に、左手で砧の肩に触れた。田村の「解錠」という声が聞こえる。

「いいんですか?記録は残りますよ」

 窓を閉める前にパスカルが訊いた。田村が鼻で笑う。

「構うもんか。どうせログの取得なんて誰もできないんだから」

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