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wO-LVes ~オオカミのいる日本~  作者: 海野遊路
第十二章 『くぐつ名義考』
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6. 〝チェーン・リアクション〟

「チェーン・リアクション」(アンドリュー・デイヴィス監督 1996年のアメリカ映画)から

 演台に立った道成寺文部科学大臣の声が途切れた。一瞬の静寂の後、会場の全員が音の方向を探す。再びさっきより大きな爆発音が聞こえた。悲鳴が館内を覆う。生徒たちと来賓が出入り口へと走る。警護者達がステージに駆けあがり、文科省大臣を別室に連れ出す。

「ちょっと何これ!」

「わからない」

 萌の叫びに、深夜がステージを見つめながら答える。

「でも音は建物の後方、私たちの真下からみたい。それより入口にみんな殺到して危ない」

「人の心配してる暇ない。ってか、深夜、何見てんの?」

「目が合った」

「え?」

「文科省大臣さんと目が合った」

「気のせいでしょ?」

「ううん、確かに私を、私たちを見た。そして」

 深夜の口元が少し緩む。

「あの、道成寺先生と同じ、懐かしい、温かい笑顔を見れた」

「皆さん!」

 スピーカーを通して館内に絶叫が響く。我先にと出口に向かっていた人の群れが止まった。ステージに駆け上がった一陽がマイクを握りしめているのが見えた。

「走るとかえって危険です!外では警察の方々が警備しています。順番に歩いて館外に出て、警察の指示に従ってください」

「校長先生」

「避難は下級生から!先生方は誘導を!来賓の皆様も子供たちの避難にご協力下さい!」

 避難中の壇上の来賓の動きが止まった。知事や議員たちが生徒の列に入り、教師たちと協力しながら左右の出口を指示し始めた。

「ネストの皆さんも早く避難しなさい!」

 一陽が深夜たちに顔を向けた。

「非常階段はかえって危険だから、まずは一階に降りて来て」

「深夜さん!萌さん!」

 二階席の反対側から八島が駆けて来た。

「早く脱出しよう。砧も!」

 中央にいた砧も階段へと向かう。

「キモオタ!あんた当然女の子に道譲るだろうな?」

「教頭がいない」

「え?」

 萌と深夜が階下を見た。大人たちの中に安宅の姿は見えない。

「ハゲタカの奴、一人だけさっさと逃げやがった」

「ミーナも」

「エミちゃん?」

「微笑?そう言えば?」

「エミちゃん!?八島さん、エミちゃん見ませんでした?」

「ごめん、爆発音以来見かけなかった」

「まあいい。ミーナを探すのは諦めよう」

「キモオタ!ふざけんな!」

「電話してみる」

 深夜がスマートフォンを取り出し操作する。怒鳴る萌と立ち止まる深夜を砧が振り返る。

「少なくとも見える範囲にはいない。先に外に出ている可能性もあるだろ?」

「僕もとりあえず脱出することに賛成だ」

 八島が続ける。深夜が周囲をもう一度見まわし、頷いた。萌も舌打ちをして階段へと向かう。

「景清さんたちはどうしてるんでしょう?」

「最初の爆発音の後連絡をしたが通じないんだ。外へ出たら探してみよう」

 八島が避難する生徒たちに視線を移す。

「今のところ二度の爆発音だけだけど、何があるかまだわからないし、出荷要請があるかもしれない。とにかくいったん建物から離れよう」

 八島の先導で階段に向かう。深夜が周囲を見回しながら続く。来賓や教師の誘導で生徒たちが館外へと避難している。あちこちから様々なサイレンの音が聴こえ始める。

「ネストは点呼では飛ばされるはずだ。落ち着いたら、各自クラスHELIXで無事を伝えておけばいい」

 携帯電話を耳に当てながら速足で階段を降りる八島に、深夜が頷いた。

「八島クン、どうすか?」

「だめだ、連絡がつかない」

 八島が電話をしまう。四人は館外の裏口側に出た。緊急車両のサイレン音が大きくなる。

「連絡が取れなきゃ仕方ない。奴らは奴らの事情があるんだろ?まあいい。俺は帰るから」

「はぁ?この状態で?」

「特に要請も出てないし、鍵がかかってりゃできることもないだろ?」

「待って。HELIX。エミちゃんから。『助けて下さい』って」

「位置情報は?まだアプリ入れたままだよね?」

 八島が訊いた。深夜が「あ、はい」と画面を操作する。

「三ツ谷東のあたり。十八号を越えて北へ向かっています」

「どういうこと?」

「砧さんの心配した通りなのかも」

 深夜が見つめるスマートフォンの画面で、位置情報を示すマーカーが点滅している。

「誰かがエミちゃんが必要なのか、それとも」

「警察に電話でもして、とりあえず家に帰って連絡を待つというのはどうだ」

「あんた、ほんと自分のことしか考えないね」

「砧さん!車を出して下さい!何があったかわからないけど、エミちゃんはきっと誰かが助けてくれると思ってるはずです。誰かに助けてほしいと思ってるはずです」

「エマ、冷静に考えろ。鍵のかかった俺たちに何ができる?無力なまま救助に向かっても、被害を大きくするだけだ」

 深夜が周囲を見回し、そして避難を誘導する列に向かって走り出した。

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