ツキアカリノミチシルベ
肌を撫でる夜風が涼しい。少し潮の香りを含んでいるのは、海が近いからだ。いつもなら都会らしい濁った川の色を覗かせるのだが、今は街灯の光を反射して昼とはまた違った趣きを生んでいる。
真夜中過ぎ。僕のお気に入りアニメの映画化ということで、見に行ってきた。
「やっぱり傑作だよなぁ。」
余韻を楽しむように目を閉じてそう呟くと、感動的なシーンが頭の中で繰り返される。
主人公の葛藤や不安が僕に乗り移る。それは今の僕にとってはどうしようもないほど現実感がある。映画ほど、非日常を手軽に感じせるものはない。
僕がこのキャラクターだったらどうするだろうか…?
1つの作品を見終えると、どうしてもノスタルジックな気分になってしまう。初めてこの作品に触れたときの感動を思い出し、届かない過去を回想する。どうしてか、泣き叫びたくなる。
川べりのベンチに腰掛ける。薄暗い橙色の街灯が地面の幾何学的な模様を照らしていた。
流れる水の音が不思議と大きく聞こえる。
空を見上げれば、月が夜空を照らしていた。その光は街灯よりも白く鋭い色をしていたが、ぼやけていた。東京が明るすぎるのだ。構想マンション群や、色彩に富んだオブジェクトは否が応でも目につく。
しかし、人が気付こうが気づかまいが、月は夜空を照らし続けてきたはずだ。太鼓の昔から。そして、これからも。人の想いなど関係なく。
いつか、溢れ出るこの感情を、形にしたい。そうしなければ零れ落ちてしまいそうだ。