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弱くてニューゲーム  作者: 直井 倖之進
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第二章 『強くてニューゲーム?』②

 駅近郊に、小学校の校舎ほどの大きさの建物が三棟、コの字型に並んで建っている。

 それが、木村とテンコの目的地、この街で最も大きな病院であった。

「お伝えした男の子、(ふか)(いし)(ゆう)()君は、小児病棟の三〇二号室にいます。退院の時間が(せま)っていますので、直接向かいますよ」

 三階にある病室を目指して、テンコが急降下していく。

「り、(りょう)(かい)

 緊張を()(かく)し、木村もそのあとに続いた。

「こちらです」

 病棟の(がい)(へき)から、テンコが南向きの大きな窓を指さす。

「うん、分かった」

 木村は、窓から室内の様子を(うかが)った。

 病室は個室で、窓の近くにはそれに並ぶようにベッドが設置してあった。ベッドの上では少年がこちらに背を向けて座っている。

 「あれが、優太君だな」そう木村は考えた。

 だが、それも束の間、

「あ、まずい!」

 彼は声を上げ、慌ててその身を隠した。

「どうしたんですか?」

「い、いた! いたんだよ、人が!」

 (あわ)を食った様子の木村。

「それは人ぐらいいるでしょう。病院ですから」

「いや、そうじゃなくて、医者や看護師じゃなくて、いたんだよ、女の子が。目が合った」

「女の子? あぁ、それは(わか)()ちゃんです。(きさ)(らぎ)(わか)()ちゃん。優太君の同級生で、これは、明日まではまだ内緒なのですが、校長室の金庫にしまってあるクラス()(めい)簿()を確認したところ、五年生でも同じクラスになることが決まっています」

「へぇ、そうなんだ」

「はい。優太君の人生に大きな関わりを持つ女の子ですので、彼女については、何でも細かく覚えておいてくださいね」

「了解」

「それでは、お部屋の中に入りましょうか。天使の私はもちろん、霊体だけの存在の木村さんも、窓や(かべ)をすり抜けることができますよ」

「え、病室に入っちゃうの? でも、そんなことをしたら、優太君はともかく、若菜ちゃんって女の子にも見つかってしまうんじゃ……」

「大丈夫です。もともと、私たちの姿は人間には見えませんから。若菜ちゃんと目が合ったというのも木村さんがそう思っただけ。さぁ、行きますよ」

 そう言うが早いか、テンコは窓の向こうへとその身を通した。

 恐るおそる、木村もそれを真似してみる。ガラス窓は驚くほどあっさりと彼を受け入れた。

 ベッドの(わき)を通り抜けると、木村とテンコは、今も向かい合っている優太と若菜の(そう)(ほう)を同時に見ることができる辺りの位置に立った。

 そこに、それを待っていたかのように、優太が口を開いた。

「じゃあ、僕は忘れ物がないかを確認して行くから、若菜ちゃんは一階で待っていてよ。父さんと母さんも、そこにいると思うからさ」

「うん、分かった」

 うなずき、若菜が彼に背を向ける。

 すると、優太は、彼女が出入り口の引き戸まできたところでもう一度声をかけた。

「ねぇ、若菜ちゃん」

「ん?」

「僕が入院している間、ずっとお()()いにきてくれて、ありがとう」

「え? 急に改まってどうしたの? そんなこと、気にしなくてもいいのに」

「いや、これだけはどうしても伝えておきたかったんだ。僕が学校を休んでいる間、プリントを届けてくれたり、授業のノートを見せてくれたり、本当に助かったよ」

「普段は私が助けてもらっているんだから当然よ。優太君のお役に立てるなんて、こんな時ぐらいしかないんだから」

「そんなことないよ。(よう)()(えん)の時にこの街に引っ越してきて、近所に住んでいる若菜ちゃんと出会って、それからは家族みたいにずっと一緒で、楽しかったよ」

「……家族」

 優太の言葉を噛みしめるように、そうつぶやく若菜。その顔が見る間に赤く染まった。

 そんな二人のやり取りを外野で眺めていた木村が、そっと隣のテンコに耳打ちする。

「ねぇ、あの二人、単なる同級生って感じじゃなさそうなんだけど」

 しかし、テンコは、ただじっと優太の姿を見つめたまま、何も答えなかった。

 彼女の(ふん)()()に何となく()され、木村も黙って二人へと視線を戻した。

「若菜ちゃん。五年生になっても、よろしくね」

「もちろんよ。私たちは、小学校を卒業しても、中学校を卒業しても、大人になっても、ずっと一緒よ。たとえ、おじいちゃんとおばあちゃんになったって、……あっ」

 調子に乗ってついとんでもないことまで告白してしまった自分に気づき、若菜ははっとしたように手を口に当てた。

 ところが、そんな(しょう)(がい)(ちか)うような言葉にさえ、優太は、

「おじいちゃんとおばあちゃんになっても一緒、か。そうなれるといいね」

 そう(しん)()に答える。

 若菜は完全に舞い上がった。

「なれるよ。私の気持ちは、幼稚園のころから同じ。そして、これから先も変わらないもの。あとは、優太君次第なんだから」

「僕次第、か。本当に、そうだね」

 そう言って、優太は小さく笑って見せた。

 だが、若菜にこの笑みの真意が理解できようはずがない。

 彼女は、

「じゃあ、私は先に行ってるから。優太君もあとできてね」

 と実に上機嫌に告げ、病室の引き戸を出て行った。

「うん。すぐに行くよ」

 必死の思いで笑顔を保ち、優太はそれを見送ったのだった。

 ご訪問いただき、ありがとうございました。

 次回更新は、4月17日(火)……なのですが、本小説の更新報告を行っていますSeesaaさんでのマイブログリニューアルが、その日、この時間帯に予定されています。

 そのため、第二章3話は、そちらの終了を待ってからの更新にしようと考えています。

 時間としての約束がきちんとできなくて申し訳ありませんが、日付自体には変更なく更新できるかと思いますので、ご迷惑おかけしますが、その旨、ご了承いただけましたら幸いです。

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