エピローグ
エピローグ
木村が天界へとやってきて、十五年が経った。
雲の上にある神様の宮殿での何ひとつ不自由のないきらびやかな生活。
だが、それも終わりを迎える日がやってきた。
現在、木村がいるのは、神様が鎮座する神の間。正面の巨大な椅子に神様が座り、その傍らには、テンコの姿もあった。
「とうとう行ってしまうのですね。寂しくなります」
木村の進言もあって、今では天使をまとめる天使長となったテンコが言う。
「うん。これは、僕が神様に願ったことだからね」
そう木村は答えた。
そこに、
「拓未ちゃん。こちらへいらっしゃい」
神様が手招きで彼を呼んだ。
「はい」
神様のすぐ前まで歩み寄ると、木村はそこにひざまずいた。
その目を真っ直ぐに見つめて、神様がたずねる。
「本当に、いいのね?」
「はい。僕は人間です。時に悩み、時に苦しみ、それでも、死を迎えるまで地上で懸命に生きる。それが、人間なんです」
「そうなの。それじゃあ、私と一緒に神になるってお話も……」
「ごめんなさい」
申し訳なさそうに、木村は顔を伏せた。
「いいのよ。そんなに気にしなくても。私は強い女だから大丈夫。それより、拓未ちゃんとは、結局、キスもできなかったわね。だから、最後にひとつだけ、私のわがままを聞いてもらえないかしら?」
「どんな?」
「握手、して欲しいの」
「えぇ、もちろん」
そっと出される神様の手を、木村はしっかりと握りしめた。
「拓未ちゃん……」
ピンクの頬紅で化粧されたその顔が真っ赤に染まる。
だが、やがて名残惜しそうにその手を離すと、神様は告げた。
「さぁ、地上では、貴方を待っている人たちがいるわ。行ってらっしゃい。限りある時間を、思い切り羽ばたいていらっしゃい」
「はい! 行ってきます!」
元気に手をふる木村の体が、眩いばかりの光に包まれる。
次の瞬間、彼の姿は消えた。
わずかに残った光の欠片を見つめて、神様がつぶやく。
「拓未ちゃん。前の人生で、貴方は、世界で一番好きと言ってくれる人を欲しがっていた。死ぬまで現れなかったとも言っていた。……でもね、そんな貴方のことを私は、世界で一番好き、だったのよ」
この日、街の産婦人科でひとりの男の子が誕生した。
命名されたその名は、偶然にも、拓未。
父親は、深石優太。
母親は、深石若菜。
そう。木村拓未は、“二人の子として生まれ変わること”を神様に願ったのである。
“心”、“技”、“体”は、全て“レベル1”に。過去の記憶も真っ白に浄化された。
それは、完全にゼロからのニューゲーム。
今、力強き産声を上げ、深石拓未、『弱くてニューゲーム』の始まりである。
ご訪問いただき、ありがとうございました。直井 倖之進です。
毎度拙い物語ばかりを書き連ねておりますが、それでも、一応は私なりに小説を綴る際、個人的な“テーマ”のようなものを掲げることにしておりまして、それは、物語の裏に隠れていたり、最前面に出ていたり、色いろです。
因みに、本作『弱くてニューゲーム』の“テーマ”は、“人生における後悔”です。
「ともすれば非常にナーバスでシリアスな内容となるその“テーマ”を、出来るだけ軽いタッチで扱ってみよう」と考え、この『弱くてニューゲーム』は誕生しました。
そのため、表面だけにさらりと触れれば、そこにあるのはコミカルとも言えないおふざけ。そう感じられても致し方ないものになっているかも知れません。
一体に人の生きる道、人生というものは、後悔の連続です。分岐点での選択を終える度に、「あちらを選んでいれば、もっとよかったんじゃないか?」そう思うものです。
しかしながら、それでも生きている限りは先に進まなければなりません。
ゆえに、絶えず心のどこかでわだかまりのような後悔を抱きつつ、人は生きています。
人間として生まれた以上、誰しも経験する後悔。これをなくすためには、未来を変えるしかありません。「あちらを選んでいれば……」を「こちらを選んでよかった」に変えるしかないのです。
そして、未来を変えるためには、今ある未来が現在に、また過去となるまで生きるより他ありません。
生き続けていれば、後悔が幸福へと変化する瞬間がきっと訪れます。また、その時、それを享受できるのは、紛れもなく自分自身なのです。
人が生きる意味というのは、つまりは、その一点に集約されるのやも知れません。
さて、話は変わりまして、ここからは次作について少しだけ。
次作は、原稿用紙で75枚ほどの短い物語、『ブラッド』という小説を掲載してみようと考えております。ウイルスにより浸食されていく世界で、それを救いたいと考えるひとりの男の話です。もう8年も前に書いていたものですので、現在の実際と照らし合わせると違う点も多々あるかとは思うのですが、ウイルス感染の加速度を現実的に感じていただくにはこのままのほうがよいと判断し、改変なく投稿する予定です。
初回更新は6月13日(水)を予定していますので、『弱くてニューゲーム』同様、お付き合いいただけましたら幸いです。
毎度のことながら、駄文にて後書きが長くなってしまって申し訳ありません。
最後に、本作『弱くてニューゲーム』をお読みいただいた全ての皆さんに、深く厚く御礼申し上げます。ありがとうございました。




