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弱くてニューゲーム  作者: 直井 倖之進
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第四章 『努力の結晶』⑤

 霊体となって四か月あまり。久方ぶりに生前に思いを()せる木村。

 そこに、天界より優太が()(かん)した。

「お帰りなさい。優太君」

「お帰り」

 テンコと木村が声をかける。

 ところが、

「はい。ただ今、戻りました」

 そう答える優太の表情は暗かった。

「どうしたんですか? 天界で、何かあったんですか?」

 そうテンコが問うと、彼は小さく首を縦にふり、告げた。

「僕、このままでは、“来年の三月三十一日”に死んでしまうそうです」

「か、神様が、神様がそうおっしゃったのですか?」

「はい。現在、木村さんが行っているトレーニングは、僕の体に十分すぎるほどの効果をもたらしているそうです。ですが、それでもまだ足りない、と」

「そ、そんな……」

 顔を青ざめさせるテンコ。

 その隣から、木村がたずねた。

「それで、神様は、他に何か言っていなかったかい?」

「木村さんとテンコさん、それぞれへの伝言を頼まれました。先ず、木村さんですが、“深石優太の生死については、十月の運動会であらかたの結果が出る。それまでは、自分を信じてしっかりとその体を鍛え続けなさい。上半身はもう十分。ここからは走ることに力を注ぎなさい。過去にとらわれず、今は前だけを見て走り抜きなさい”とのことでした」

「“過去にとらわれず”、か。神様は、本当に何でもお見通しなんだな。分かったよ」

 何かの決意をするように、木村は大きくうなずいた。

「それで、私への伝言とは?」

 今度は、テンコが聞く。

 すると、優太は、何とも不思議そうな顔をしながら答えた。

「それが、僕には意味が分からないのですが、神様から頼まれたテンコさんへの伝言は、ひと言だけ。“エッチ!”と」

「そ、そうですか……。あの、色いろと、すみません」

 テンコは、(いま)だに「よく分からない」との表情をしている優太に向かって深々と頭を下げた。

 そこに、木村が(とつ)(ぜん)大声を上げた。

「僕、ちょっと行ってくるよ!」

「どうしたんですか? 行くって、どちらに?」

 そうテンコが問うと、木村は、すでに部屋のドアに手をかけた状態でふり返った。

「決まっているだろ。走るんだよ。僕は優太君を死なせたくない。いや、絶対に死なせない! だから、今は前だけを見て走るんだ。結果なんてものは、あとからついてくるさ」

「木村さん、ありがとうございます」

 礼を言う優太に微笑んで見せると、彼は、勢いよくドアを開いて飛び出して行った。


 どれだけ努力しても、報われない時がある。結果につながらないこともある。

 しかし、だからといって、全てを投げ出してしまうのは、ここまで築き上げてきた自分を全否定することと同義だ。

 一学期のころから練習場所として目をつけていた公園で、一心不乱に走り続ける木村。

 ()()える先にあるのは、自らの栄光では決してない。そんなものとは()(かく)にならぬ、十歳の少年の命だ。取りこぼしなど、絶対に許されない。

 この日から木村は、神様より「あらかたの結果が出る」と伝えられた十月の運動会を目標に、高校陸上部時代とまったく同じトレーニングを自らに課した。それは、普通の小学五年生には到底耐えられるものではなかったが、学校の授業時間さえも訓練に割いてきた優太の体については別だった。


 そして、迎える運動会当日。(いく)つもの(ぐう)(ぜん)が重なり、彼は、かつての県大会決勝の舞台であった陸上競技場の第四レーンに立つことになる。

 ご訪問いただき、ありがとうございました。

 これにて第四章終了です。

 次回、第五章初回更新は、5月17日(木)を予定しています。

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