表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
弱くてニューゲーム  作者: 直井 倖之進
11/28

第三章 『見えた課題』①


             第三章 『見えた課題』

 

 (こよみ)も四月へと変わって、新学期。いよいよ学校が始まった。

 四年生の三学期がまるまるの入院生活であったため、ずっと学校に通えていなかった優太のことを同級生は()()の目で見てくるだろう。そう木村は予想していた。

 そのため、何を質問されてもよいようにと彼は、春休み期間中、優太についての予習を行っていた。今は霊体となっている優太本人から、入院していた時のことを(くわ)しく聞いていたのである。

 ところが、始業式の日に学校へ行ってみても、実際はそこまでではなく、友人たちからは、「退院したのか。よかったな」や「今日からまたよろしくな」などの言葉をかけられる程度であった。たとえ二クラスとはいえ、五年生進級に(ともな)いクラス替えがあったことが(そう)(こう)し、久しぶりの登校となる優太の存在が、新しい顔ぶれの中に(まぎ)れて目立たずにすんだのである。

 ごく自然に、五年二組の一員として()けこんでいく優太の姿をした木村。

 三十三年越し、二度目の小学五年生は、まさに(じゅん)(ぷう)(まん)(ぱん)な船出であった。

 しかし、物事というのは、そういつまでも上手く行くものではない。

 学校生活にも慣れ始めた四月の()(じゅん)。木村は、今の体が自分のものではないのだということを、はっきりと思い知らされることになる。

 それは、体育の時間、五十メートル走の記録測定の日に起きた。


 グラウンドに集合した子供たちを前に、五年二組担任の(もち)()ひより先生は言った。

「それでは、今日は五十メートル走の記録をとりますよ。この記録は、運動会でのリレー選手の選考にも関わりますので、(みな)さん、がんばってくださいね!」

 それと同時に、彼女は、「応援してるよ!」と胸の前で強く両手を握りしめた。

 実は、持田先生、現在、教師になって三年目の二十四歳なのだが、一、二年目はどちらも一年生を受け持っていた。そのため、子供たちに話しかける言葉はゆっくりで優しく、見せる動きも大きめなのである。

「じゃあ、五分後に開始しますので、それまでは各自でストレッチなどをしておいてくださいね」

 持田先生の指示で、子供たちが準備運動しやすい場所へとそれぞれ散らばっていく。今は子供の木村も、当然それに従った。


「木村さん。どうですか、調子は?」

 他の子から離れたのをチャンスと見たか、宙に浮いたテンコがそう声をかけてくる。

「あぁ、問題ないよ。中年のおじさんだった時と比べて、この体、すごく軽いんだ」

 アキレス(けん)()ばしながら、木村は小さく答えた。

「あの、あまり派手な記録は出さないでくださいね。そうじゃないと、来年の僕が……」

 テンコの横から、今度は優太が困り顔で口を出してくる。霊体となっている彼も、当然、一緒にいるのだ。

 すると、そんな優太に木村がたずねた。

「そういえば、優太君。去年の五十メートル走の記録って覚えてる?」

「はい。確か、九秒四ぐらいでした」

「測定した時期は?」

「今年と同じです。四月の終わりごろ」

「なるほど。じゃあ、標準的な記録だね」

 そう答え、木村はゆっくりと腕を回した。

「へぇ、そんなことまで分かるんですね」

 テンコが感心したような声を上げる。

「もちろんだよ。前に言っただろう。これでも昔は陸上の選手だった、って」

「私、少しだけ木村さんを見直しました。それで、今年の平均記録は、どのくらいになるんですか?」

「そうだなぁ。小学五年生男子、十一歳の平均記録は、八秒八なんだけど、四月だとほとんどの子はまだ十歳だから……、九秒ぐらいかな」

「九秒、ですか」

「そう。優太君も言っていたように、あまりタイムが早くなると来年困るだろうし、今回は、その辺りを(ねら)ってみるよ。ごく(へい)(ぼん)なタイムを出す僕の走りを見ていてくれ」

 そんな決して恰好よくはない台詞を最後に、木村は、集合場所へと(さっ)(そう)と去って行った。


「それでは、出席番号一番さんから走ってもらいます。他の皆さんは、しっかりと応援してくださいね。あ、そうだ。体育係さんは、ストップウォッチを持って、ゴール地点でタイムの計測をお願いします。スタートは、スタート地点にいる私の持つ旗が上がった時。ゴールは、走る人の胸がゴールラインに到達した瞬間です。責任重大ですよ」

 持田先生が、体育係にストップウォッチを()(わた)す。

 それを受け取る子の中に若菜がいるのに気づき、木村がつぶやいた。

「あれ? 若菜ちゃんって、体育係だったんだ」

「何を言っているんですか、木村さん。もう忘れたのですか? 若菜ちゃんは、体育が得意です。一学期は体育係をやっていて、委員会も体育委員会。彼女については何でも細かく覚えておいてください、そうお願いしたでしょう」

 体育座りの木村の頭上からテンコが怒る。

 近くに同級生がいるため返事ができない木村は、「ごめん」と、そっと小さく頭を下げた。

 ご訪問いただき、ありがとうございました。

 次回更新は、4月23日(月)を予定しています。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ