*肆拾壱
▼扇
担任の嶋村先生が出した妙ちきりんな計らいにより、この3年A組でも小規模なクリスマスパーティー(のようなもの、あるいはただ焼きそばとケーキを作って食べるだけの会)が開かれることとなった。
曰く『自分達でデコレーションしたケーキをアップすればインシュタ映え間違いなし』とか。
――違 う だ ろ こ の ハ ゲ 。
……訂正しよう。嶋村先生はハゲではない。だが、インシュタ――正式名称『Inshootergram』が流行ったのは約90年も前だろうが。どういう忖度だ。正直なところ、拳で抵抗させて頂きたい。私はまだ15歳だが。
まあ、焼きそばはまあまあ好きなので良しとしよう。
と、いうわけで私達は黙々と焼きそば作りに励んでいるところだ。
「岸波さんって焼きそば好き?」
「まあまあ。嫌いじゃないよ」
穂香もそうだが、どうして私のクラスメートは定期的に私に話しかけないと気が済まないのだろうか。
「それじゃあ岸波さんが好きなものって何?」
自分の好きなもの。
私は復讐に傾倒してばかりであまり意識してはいなかった。だが、全くないわけでもなかった。
「うーん……食べ物だったら味噌ラーメン。名言なら、ユダヤの聖典『タルムード』の『立派な生き方をせよ。それが最大の復讐だ』。教科は特に好き嫌いないけど得意なのは文系、好きな色はあえて挙げるなら青紫」
「好きな名言まで復讐なんだ……」
「まあね。服はついついモノクロのやつを選んじゃうかな」
制服を着崩すつもりはないが、実際、今の髪留めのリボンも黒いものだ。所謂ゴシック系統の服にも惹かれてしまう…流石にコテコテのブランドの服は持っているわけなどないが。駿河じゃあるまいし。
――駿河?
パァン、と乾いた音がした。
どうも駿河のことを考えていると何かに当たってしまうようになったようだ。
「!……どうしたの岸波さん!目が怖いよ?」
「……いや別に?空気を抜いてただけ」
とりあえず何もないという表情を作り、穴を更に広げる形で焼きそばの麺の袋を開けた。
***
完成した焼きそばはそれぞれ1人分の割合で、別に熱盛という訳でもなく紙皿に載せられた。今、私達はいつもの6人で班型に並べた机を囲っている。
「じゃあ乾杯だ。メリークリスマース♪」
陽菜はどこで見つけてきたのだろうか、『みっくちゅじゅーちゅ いちごそーだ』なる妙な飲み物を飲んでいる。
「陽菜、それ美味しいの?」
確かにクリスマスを控えた今の時期なら、炭酸飲料が出回っていても全く不自然ではないだろう。
「物は試しで買ったんだけど、結構美味しいよ?」
「…私はありよりのなしなんだけどね、そういう系統」
「まじかー。あ、皆はクリスマス暇だよね?皆でクリスマスパーティーしない?」
お前らはどうしてそういう発想がすぐに出てくるんだ。
「…まあ、いいけど。いつ?」
「24日でよくない?学校ないし」
確かにその日は金曜日だが、もう学校は終わっている。
「どこにする?」
「私の家でもよければ…」
千石がおずおずと手を挙げる。
「うん!じゃあ24日は千石ちゃん家でパジャマパーティーだね!」
どうやらこの年末も、愉快なこいつらと過ごすことになりそうだ。…復讐を念頭に置いた上で、だが。