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×6 願望の交錯  作者: 有栖川優悟
2/3

*肆拾

人は些細な侮辱には仕返ししようとするが、大いなる侮辱にたいしては報復しえないのである。したがって、人に危害を加えるときは、復讐の恐れがないようにやらなければならない。

――ニッコロ・マキャヴェッリ


 

 社会心理学者、エーリッヒ・フロムは著書『正気の社会』にて、このように述べている。

「いまもなお、社会が全体として正気でないことがあるという考え方をうけいれようとしない精神医学者や、心理学者が多い。彼らの考えによれば、ある社会における精神の健康の問題は、たんに、『適応できない』個人が何人いるかという問題にすぎず、文化それ自身が、適応できなくなるという問題ではない」

 私も心理学者として、あるいはサトリとして様々な人々の心を読み続けてきたのだが、ここ最近の異形社会は特にフロムの批判している典型事例ではないかと感じてきている。

 その社会では、生まれつき異形の力を持たない人間を『無能力者』と呼ぶらしい。『空欄、空白』を意味する『blank』に『~である者、~する者』という意の『~er』をつけた語だ。元々は五十年前くらいに出生届に追加された『異形血統』という欄が空白である者を指して使われた専門用語なのだが、次第に『能力を持たない者』という意味合いで一般的に使われるようになった。それは、言い換えれば『異形社会に適応できない者』であり、そのような個人を括り出してレッテルを貼り付けているだけなのではないだろうか。

 しかし、今の状態を生み出しているのは無能力者個人ではなく社会自身なのだ。それに気づかない限り、異形社会の闇はき明かされないのだろう。

 ――新戸あらと朝海あさみ『このかしましい異形社会に警鐘を!』より一部抜粋


 ***


 ▼おうぎ

 やはり私はこの異形社会・朝葉原ともはばらに適応できないのだろうか。

「扇ちゃん何読んでるの?」

「評論の本。これを書いた人も、朝葉原に住んでるのかな」

「いつも難しいの読んでるよね…」

 クラスメート・間宮まみやしのぶは私のことを日々気にかけてくれているのだが、私にはそれがどのような理由での行動か、あるいはどのようなことを意図いとしているのかなどは想像がつかない。悪意などはすぐに見抜けるのに。

「そう見える?」

「だって私そんな感じの手に取らないし、活字は教科書とライトノベル以外はあまり触れないし…」

「…まあ、今はそういう時代だもんね」

 かくいう私も彼女が勧めてきた『向かいの放火魔ほうかまさま。』は電子書籍版で読んでいる。ちなみに今読んでいるものはまだ電子化されていないそうだ。

「でもさ、私はどっちでもあまり変わらないと思うよ。『さるかに合戦』の蟹がズワイガニかタラバガニか聞くようなものでしょ?」

「あのー…扇ちゃん?」

 目の前の彼女は頭にクエスチョンマークを浮かべている。

「あー…うん、ごめん。気にしないで」

 ……まずい、絶対変な人って思われたな。


 引用:エーリッヒ・フロム『正気の社会』

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