7(蛙の子は蛙)
アイザックは旅団内で唯一の男性学者だそうだ。
というのも学者には他に女性しかおらず、同行している男衆はみんな用心棒だからだ。5人ほどいるらしい。
旅も一段落ついたため、国へ帰ろうとなったわけだが、女王ソフィアは早く話を聞きたがるだろう。
そこで男性学者であるアイザックは一足先に帰ってきた。
道中、危険なこともあるだろうけど、そこは女尊男卑のこの世だ。男なら大丈夫だろ!行けよお前!と体よく使われたわけだ。
「一段落ついたって?」エマが口を挟んだ。「つまり、ソフィア様にはどんなお話をしたの?秘密事項?」
「いいや、すぐに君達には伝わると思うよ。民間人には秘密だが司書は特別だ。」
アイザックは複雑そうに眉を顰めた。
そして娘の顔をちらりと見て、ワインを一口啜る。
「ただ、エマはどうだろうね…。」
「それは私には伝わらないかもしれない、ということ?」
エマはすぐさま食い付いた。目をすっと細める。
ヒューはこの顔を何度か見た。
その目でじっと見据えられると、何でも従わなければいけない気になってしまうのを知っていた。
父が口を開く前にしっかりした声で言う。
「何かとっても危険だったり重要だったりすることがあったのね?」彼女は意識的にハキハキと喋った。言葉を続ける。「20歳にも満たない人にはいくら司書でも言えないような。」
アイザックはしばらく沈黙したが、重い口を開く。
彼女のまさに図星の考察の前で隠す事はできないし下手に嘘は言えない。そもそも嘘は言いたくない。ここは賢者達の国。真実でないものを嫌った。
ただ、
「明日を楽しみにするといいよ。」
とだけ朗らかに言い残し、そろそろ城に戻るよと言って母親の頬にキスをして出て行った。素早い動きだったとヒューは語る。
ちなみに言うと、頬にキスをする習慣はこの国ではもう滅びている。
祖父さんのそのまた祖父さんぐらいの時代に途絶えた。
エマはそのキザったらしい行動と癪に障る言葉に過剰反応し、(なんたって目の敵にする父親だ)「しばらく帰って来ないでよね」などとぶつぶつ文句を言った。