6(蛙の子は蛙)
「やあ、おかえりエマ。」
「…ただいま。何で帰っているの?」
「ハハ、そんな嬉しそうな顔しないでくれよ」
「誰が嬉しそうな顔なんてしてるものですか」
「やだなぁ照れちゃって。エマの恥ずかしがり屋さんっ」
「ウインクしないで下さい気持ち悪いです蕁麻疹でる!」
「僕、エマがあんなに嫌がってるとこ始めて見ましたよ」
「ごめんなさいねぇ騒がしくて」
「面白いので問題ありませんよ。」
ちょっと!少しは止めてよヒュー!
母の作った美味しそうなクリームシチューを目の前にして、エマは憂鬱そうに溜息をついた。丸い机を母、ヒュー、エマ、父の順番で囲んでいる。
「どうしたんだ?そんな顔して」
「黙ってお母さんの料理を噛み締めてください」
男は冷たいなぁ、と言いたいかのようにひょいと肩を竦ませた。
ヒューの好奇心に漲る瞳を受け止めつつ朗らかに微笑む。
この人は正真正銘、エマの父である。
情報マニアの鮮やかな問いに流された結果だが、とにかく彼女はしぶしぶ認めた。
(母はその様子をやけににこにこして見ていた。友人の存在が嬉しいのだろう。)
いつの間に仲良くなったのか、「ヒュー、そこのケチャップをとってくれないか?」「はいどうぞ」「ありがとう」家庭にありがちな光景を見た。なるほど、息の合う人達かもしれない。友人は自分がセシル家に溶け込んだのを見計らい(つまり、すぐにという意味だ)父に話しかけた。
「それで、訊きたい事があるのですがいいですか?」
丁寧に切り出す。エマは始まった、と天井を仰いだ。
問われた父は鷹揚に笑む。「構わないよ」
「まず、貴方の名前って何ていうんです?」
「ハハ!確かに名乗っていなかったな。失礼をした──アイザック・セシル。気軽にアイザックと呼んでくれ、ヒュー。」
「じゃあアイザック、さっきの会話から聞くとあまり家にいないようだけど仕事は何を?」
「もちろん日頃は家にいないさ」アイザックは悪戯っぽく言う。「俺は旅人だからね」
エマがフンと鼻を鳴らしたが無視する。
「旅人?」
ヒューは聞き返した。珍しい職種に違いないからだ。
旅人といって思い浮かぶのは、世の知識を貪り尽くす為のソフィア様御用達黒の旅団。
世界中を旅する、女王のお気に入りではあるが非政府的存在な学者達。
基本ユニホームを黒とする彼らを、黒の旅団と呼ぶ。
それしかないだろう。けれど到着したという話はまだ聞いていない。
どういうことかと訊ねる。
アイザックは言う。
──僕は間違いなく黒の旅団メンバーだよ。