5(蛙の子は蛙)
エマにとって、ヒューの存在はとても有難かった。
その理由は2つある。
1つ目に、彼が情報マニアであること。
交友関係が驚くほど広く、噂という噂をすぐにキャッチする。
誰々が誰々と付き合い始めたとか他愛のない話から
政府の誰々が浮気しているかもしれないだとか出世に関わる重大な話まで。
それだけに終わらず、新聞に載っている事柄について記者より詳しく知っていることもあった。
驚愕と感心を通り越し、何か薄ら寒いものさえ感じてしまったのを覚えている。
まさかヒューは詠魂者で、未来をあらかじめ知っていたのでは?
思わず疑ってしまう程に情報の回りが速いことも、彼の自慢だ。(あまり褒めると調子に乗るので言ってあげないけれど)
2つ目に、純粋に親しい友人が居ることが嬉しかった。
エマはあまり友人が居なかった。というより、不要だった。
全くいないわけではない。それなりに喋ったりもした。
けれど本当の意味で支え合い笑い合うような間柄の人間は、母親以外に居なかった。
そもそも正直に言うと勉強の方が好きである。
「友人と軽くお喋りしながら長い時間をかけする食事」より、「すぐに食べ終え図書館に向かい勉強する」方が時間の有効活用。そう考えていた。
今もエマは自分でその方がいいと思う。
けれど、「友人と軽くお喋りしながら長い時間をかけする食事」も悪くない、と感じる。
しかし、ヒューは大体、食事の時間も情報収集で忙しくしているから(目を輝かせ楽しそうに情報を聞き出す。変人だ)隣に座っている自分も多種多様な情報が聞けて得だったりするわけだ。
ときどき話を振られ答える。
共同戦線をはかり共に聞き出そうとする。
話をじっくり聞いている。
そんな距離感が、煩わしくなく好きだった。
ヒューは立派に大人で賢く面倒見もある為に、頼りになった。
頼りにし頼りにされる。
真の友情、と自己満足気味に思う。エマは、大切なものの事を考えるときの、贔屓目で見てしまうような頭の悪い自分が好きだった。
さて、そんなヒューに母の話をした。
彼は興味が湧いたならすぐ行動する。その話をした日の内に、夕食に相伴うことになった。
誰かを自分の家に誘うことは始めてだったので不思議にわくわく心が躍った。
ヒューがバスの運転手から情報を聞き出しているのを手伝っている間に家に着く。
セシル宅は存外に一般的であることを記しておこう。
「ただいま」と家に入った途端、よもやここまで驚くことになるとは思わなかった。エマは顔が引き攣っているのを感じつつ母に問う。
「なんで父さんが此処にいるの……?」
彼女は後ろで興味深そうに青い目を輝かせる男を、じっとり睨みつけた。
正面にいる男性は、ものすごく厄介な人物なのだとわかってほしい。