3(ソフィアの本)
「なんて素敵な空間なの…」
エマは半ば呆然と呟いた。その表情は、恍惚としている。
司書となり3日目。
1日目、2日目とも丸一日を秘密の書庫で過ごした。食事をするのも寝るのも忘れ、ただ本にのめり込み没頭した。
コリンが様子を見に来てくれなければきっと倒れていただろう。
実際に、エマは勉強ばかりしていて倒れたことがある。お母さんに呆れられた。その日以来、どれくらい集中していようがお母さんは栄養をとったり寝たりするよう促すようになった。
お母さんには本当にお世話になっている。
エマは素晴らしい知識達に囲まれている現実について興奮して痺れる脳内でぼんやり考えた。まさにそうなのだ。エマは昔から論文についてなど素晴らしい賞をもらってはいるのだが、直接的な親孝行をした覚えはない。いつも買って欲しい本があっておねだりしたり、甘えてばかりだったと思う。
エマにとって母親とは、そういう存在だった。助けてくれて頼りになって、つい甘えてしまう。
司書になったことを、お母さんは自分のことのように喜んだ。そのとき見た笑顔は「大賢者達の大論文」と同じくらい魅力的だった。(エマにとってのこれは相当なものであることを知って欲しい)だからこそ、はじめの給料から彼女のために何か買おうと決意している。
物思いに耽りながら、エマは4冊目の「手の焼く本」を読み始める。
題名は「詠魂者の栄光」
詠魂者とは、対峙した者の魂を歌う者。
魂には予感や運命、つまり未来の予定みたいなものが表れているらしい。それを視ることが出来る奇怪な能力を持った人が居て──珍しい能力を持つ人がたくさんいる緑髪の国にしか居ないと聞いた──それを、より正しく伝えるには思うままに歌うことが1番だとか。
それで、詠魂者。未来を歌う人、と呼ばれることもある。
詠魂の能力を持つ人は極々僅か。
なので未来を知ることはとても貴重だ。
つまるところ、詠魂者は各国が喉から手が出る程欲している。
隠れ潜み生きているのだから、詠魂者について知っているのはとても少なく好奇心はビンビンに振れた。
嬉々として読み出す。
本を開くその動作を読むというのならば、読み出すという表現で合っている。
開いた途端に淡く七色に光り輝いた美しさをなんと表現すべきか。
意識は暗転し夢の中。