2(ソフィアの本)
秘密の書庫へたどり着く手段は、今までの体験からいえば奇妙だった。エマは後からコリンにそう感想を述べる。
植物が人の意思に従い動くだなんて一般的には有り得ない。
だがここは「ソフィアの大木」であることを忘れてはいけない。
「人が想像し得ることは全て実際に有り得ることである」
某哲学者の意見に賛成している立場からすれば、例え丁寧に頼み込んだら枝が退いて秘密の書庫に繋がる扉が表れたとしても充分予想内の範囲だった。
5冊は本を読んでみるといいと思うよ。
手を振って出ていったコリンを見送り、興味のある本に手を伸ばす。(といっても、エマにとっては全てが興味ある本だった。)意外と整頓されているものだから驚いた。どこをどう改善すればよいものか。少し乱れている所を整えて、本に没頭し始める。
エマとて知識欲に捕らわれてしまう考えなしではない。
天才独自の優れた勘が危険を知らせるものは避けて(例えば「異空間への粋な旅行記」。1年もかかったというのはこの本のせいではないかと思う。「暗い森のサーカス−愉快な異形の怪物達−」怪物達が"出て"きても可笑しくはないだろう。)結局、エマは「大賢者が残した大論文」を選んだ。
読む人によってはとてつもなく難しくつまらなく思えるだろうけど、彼女にとってはとてつもなく魅力的で素晴らしく思えた。少なくとも8cmはある厚みと小さな細かい字はエマをうっとりさせた。
天才と奇人はいつの時代も紙一重である。