色々、色
四月の末。
春の大型連休の一週間前。
僕はこの季節が大好きだ。
この季節だけはどの日も気分がいい。例え、新しいクラスで友達が出来なくても、家に帰って夕飯が用意されていなくても別に何のことも無いように思う。どんな事でも許してしまえる。
何故かと言われたら困る。
理由がたくさんありすぎるのだ。
四月の初めにはこぼれんばかりに沢山の花を抱き、会社員、学生、家族連れなどを魅了していた桜は、新しい若葉が芽吹いて、次の年へ力を蓄え始める。また、その上では端午の節句を前に黒、赤、青の鯉のぼりは春の澄んだ空を泳ぐ視線を下げてみれば、少しずつ大きさと高さの違った水田に水が入り始めている。代掻きの終わった所では水面は平になり、時折吹く風になびく。道のすぐ横のアスファルトやコンクリートのない土が露出している所では、茶色の中に、ポツンポツンと小さな緑が見え始め夏への憧れを感じる。
どれもこれも、夏にも秋にも、ましてや冬でさえないものだ。
この時期にしか現れることは無い。
夏はじりじりと照り、地面を見下ろしている太陽に対抗して、草木はその葉を硬く、濃くする。
秋は力尽きるものも多く、寒くなり始めた空気を和らげるためか暖かい色になる。残ったものも夏よりもくらい、冬を待ち構える落ち着いた色になり力強さが消えてゆく。
冬は言わずがもがな。皆、耐えることに必死だ。
しかし春はエネルギーにみちみちている。死を考えさせる冬を乗り越え、盛の夏の為に今ある力を最大限使って生きる。何だか夢がある。
その草木の力に自分も乗って、空も飛べそうだ。天にも昇る気持ちとは多分このことを言うのだろう。
僕はそんなふうに思いながら恍惚と窓の外を眺めている。
何度も言うがとてもいい気分だ。
何となく柔らかい空気が濡れた頬を優しく撫でている。
ペタッ。
突然、誰かが僕の足首を掴んだ。
その手は、何だかネトネトしていて、気持ちが悪い。この季節には有るまじき感覚ではある。少し不愉快になるが、それでも何だか許してしまう。
僕はその手の方を見る。
その先には当然一つの頭と体が繋がっている。けれど、普通とは少し違うような気がする。鼻と左耳は不自然な形に切り裂かれ、右耳に至っては耳たぶの少し上で辛うじて繋がっているようだ。体は眩いばかりに赤く染まっている。少し動く度にその体に空いている穴からトクトクと赤い液体が湧いている。
またもっと向こうにはもう動かなくなった肉塊が落ち、床には池が出来ている。
僕は足を掴んできたそれを蹴飛ばす。
まだ生きていたのか。
まあいい、それくらいはこの日に免じて許せる。
でも早く消えてね。
僕はそう言いながら右手に持ったものを振り下ろした。
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