17話 偽
魔界三大国家が主導する魔族評議会、通称【魔会】において、人間界でのルール、規定のようなものが制定されている。
その中のひとつ、基本的に魔王が拠点を置いたダンジョンは、人間界の各街に置かれたダンジョンギルドへの登録が義務となっていた。
そうする事により、同派閥からの誤侵略を防ぐとともに、敵対する国、又は派閥のダンジョンを攻略しやすくする狙いがあるみたいだね。
こうしてダンジョンの所有権を明確にすることで、その時々の勢力を計れるし、同士討ちの際に「知らなかった」と言う逃げ道を塞ぐ事ができるんだ。
そんな意図がこのルールにはあるんだけど、今の僕にとったら宣伝効果を狙えるとても都合の良い決まりでしかないね。
Fランク魔王。それが拠点を置くダンジョン。
この不名誉の代名詞とも言える肩書は、ダンジョンの攻略難度を予測する判断材料に用いられる。
もちろん訪れる目的は低ランクの魔物。それから採れる素材、そして生命の泉。
素材はもちろん、生命の泉も金銭に替える事が出来る。
だけど、ここにいる魔物は規格外だからね。
舐めてかかるとその命、あっという間に生命の泉と化す事になる。
警戒してたとしても、あっという間には死なないってだけだけどね。
「それにしてもネル。こうも生命の泉がぼろ儲けできるとは思わなかったぞ」
「ほんとその通りです。まさかFランク魔王のダンジョンがこんなに難易度が高いなんて思わないですよね」
オリビア家への一時帰郷まで10日を切った。
当初の予定では、その時までに魔角と生命の泉を5,000程手土産にするつもりだったんだけどね。
順当に魔角を生やしたまでは良かった。
だけど思いがけずに部下が2人も出来た事で、少し予定が狂ってしまったね。
本来ならば、僕のスライムに留守番させておくつもりだったんだけど、2人の部下が出来たんだからその必要もなくなった訳だ。
だけど今度は、その2人に留守を任せる事が出来なくなってしまった。
この時点で元々考えていた、僕のスライムに留守番させる案を採用しても良かったんだけどね。
せっかくならそれぞれの分身体を作って、強固な守りにしておこうと考えた末に計画がずれこんでしまった。
でもまあ、拠点登録を早めに済ませておいたのが幸いした。
侵入者の姿が見えてから今日で3日。
新しく出来たFランクのダンジョンは今日も盛況を博し、人間の冒険者、低ランクの魔王達が殺到している。
あわよくば玉座をも奪取しようと企むBランク魔王まで出没し始めて、いよいよ僕のノルマは予定のラインまで追いつこうとしていた。
「まあ、Aランクの魔王が10はいないと1階すら突破できないだろうね。それでもかなり難しいかも知れないけど」
現在、遺跡の1階以外は改装工事をしている。
なので、1階部分に戦力の半分を結集させて、迫りくる攻略集団を片っ端から迎撃させている。
その戦力は、レイミーの使い魔、フレイムドラゴンを魔改造した【フレイネ】と、サリーのシザースコーピオンを魔改造した【シザリー】の2体。
更に、僕が新たに生みだした使い魔、スライムを魔改造した【スライ】を配置している。
この人型の使い魔を【分身体】と呼ぶことにした。
このほかに、【ゴーレムゴブリン】30匹、ディジェネスライムを更に進化させた【パラサイトスライム】10匹、カタパルトスライムの改良版【スナイパースライム】10匹を配備してある。
「ふははははっ! 我が分身体のシザリーが今のところ一番の稼ぎ頭なのだ! 見ろこの鮮やかなハサミ捌き! しかも何人も傷を負わせることのできない圧倒的なボディ! 無敵、まさに無敵なのだ!」
サリーの性格を受け継いでるシザリーは、侵入者と見るや真っ先に飛びかかっていき、両手のハサミと尻尾のハサミを自在に操り、次々と撃退していく。
「それはシザリーが好き放題暴れてるだけだよ。それぞれの分身体は高ランクの魔王が来た時の保険なんだからさ」
「ぬ、そうなのか?」
人間の冒険者や低ランクの魔王、魔物はゴーレムゴブリンが壁となり、2種類のスライムが殲滅にかかるだけで事足りる。
合成された魔物を見て、驚いてる隙に殺す楽な仕事だけどね。
シザリーが殺し損ねた獲物は、瞬く間に狙撃され、液状になったスライムに寄生されて死亡する。
スナイパースライムは、カタパルトよりも殺傷性が高い弾丸を放ち、一撃必殺の各個撃破に最適な改良を施した。
パラサイトスライムはサリーの魔術【変異魔形】を組み込んである。
液状のままで敵の全身を覆い、変異魔形により数百本の針をゼロ距離で突き刺す防御不可能な攻撃を有している。
未だこの遺跡1階を突破する者は現れない。
遺跡の1階。その入り口の真上に観戦できるスペースを作り、僕たちはそこでただ見守っているだけ。
改装工事はドリルゴーレムとサンドスライムに任せ、時折その進捗を確認している。
こうして遺跡の改修と同時進行で、戦力の確認、分身体による留守番の予行演習を兼ねた、生命の泉集めは進んで行く。
しかし、地下にすら潜れない、Fランクダンジョンの噂はあっという間に喧伝されていった。
それはオリビア領地街にも広まる事となり、酒場に訪れた際にその二つ名まで耳にする。
どうやらかなり有名なスポットとして認識されてるみたいだね。
しかもこんなに早く二つ名まで付けられちゃうなんて。
酒場の客は口々に言っていた。
「遺跡の魔王がFランクなんて嘘だと思うぞ」
「1階の時点であんなに強かったら、主の魔王はAランクでもかなり上位の実力に違いない」
「でも、スライムとか変なゴブリンばっかだったぜ?」
「馬鹿野郎! 狙撃してくるスライムやゴーレムみたいなガタイのゴブリンなんて見た事ねえやい!」
「なるほどっ、それで付いた二つ名が【偽りの遺跡】って事か!」
と言う事で、どうやらあの遺跡の魔王がFランクと言うのは偽りで、こんな二つ名を頂戴したって事だね。
何とも言えない心境だったけど、レイミーとサリーにしたら納得のネーミングだったみたい。
「ほんとネルさんがFランクの訳ないですよね」
「うむ。ネルは恐そうな仮面を被った心優しき魔王だしな! 実力も性格も偽りだからぴったりなのだ」
と言う訳で、僕に反論の余地は無いらしい。
まあいいか。
体面よりも僕は恩返しと言う大義があるからね。
その為なら、これからもいくらだって偽ってあげるさ。




