表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/3

始まり

『ワールドヘブン・オンライン』は、日本では500万人以上のユーザーがいるほど人気のVRMMOとなった。ユーザーも多種多様で、80のお年寄りでもプレイ可能だし、小学生未満もいた。規制はあったが、適合すれば結局そんな制限など守る輩もいなくなる。

 そのように色々と問題もあるのだが、それを上回るほどの人気もあり、複数のアカウントを持つ者も少なからずいた。

 そんなユーザーの一人、アキラもそうだった。

 底辺大学をなんとか卒業し、すぐ、はまった。

 最初は変なペットを飼ってみたり、ホームで花を色々と育てたりしていた。すごく楽しかった。

 そのうちぽつぽつとオンライン中で話す仲間が増えていき、結局6年間プレイしている。

 その日も、明日から連休ということで、アキラはパソコンの前で準備満タンであった。一晩徹夜でやれるだけあちらに居ようと考えたのだ。浮かれていた。そのときはまだ普通にプレイするだけであった。いつも通りであったのだ。

 専用のヘルメットを被っていざ、というときだった。アキラの意識は急激に遠ざかっていた。

 

 

 

 少女は急いでいた。急いではいたが、背が小さいため、歩幅も小さい。ぽてぽてと歩いているのではっきりいって遅かった。白いローブにすっぽりと頭から太腿まで隠して旅衣装であった。『ここ』でのアキラであった。

 少女の歩いている森は、この世界『ワールドヘブン』の標高4000メートル越え級の山々の間の、ただ草が生えずに石ころが自然に敷いてあるだけの所詮脇道であり、数メートルしか幅はなく、すぐ脇はぼうぼうの草原だ。その奥の林はよく見えないほど暗い。モンスターの影はこの道からは見えないが、たまに道まで出てくると聞いた。

 少女はここの道を馬車とすれ違うたび声をかけられた。危ない、乗りなさいと。だがそれは信用できる言葉ではないようだったため、少女はそのまま通り越してきたのだ。

 この数日で、日本の常識は全く使えないのだと驚愕した。なんで不審者だらけなのだろうと思ったが、世界で平和ボケした国だと書いてあったことを思い出し、自分の判断でまさに生き死にが分かれる世界では、日本の普通といった行動はないと考えることにした。

 そしてスリの手は華麗に叩き折ってやり、にこやかに手を握ってきた豚の手を握りつぶし、人さらいポイ人間に体を持ち上げられたときにはその腹部を蹴り飛ばし、いきなり罵声を浴びせられたときはそいつの顔面が近づいてきたときジャストタイミングで鼻を潰した。もっとある。なぜこんなにロリコンが多いのか。馬鹿野郎がと心の中で罵倒しながらここまで来たのだ。むしろこのモンスターエリアの道に入ってやっと落ち着けたくらいだ。

「・・・・・・」

 後ろからの視線がある。不安と、絶望と、少しの希望。悲しみと、寂しさ。捨てられた子犬の視線に思えた。ここに来てからゲームのキャラのレベルのおかげか、一層五感に鋭くなったため、後頭部がむず痒い。

 振り向いてやったら、三人の中学生?くらいの少年たちであった。

 アキラよりも頭一つ高いくせにアキラに怯えていた。

 武器はしっかり持ってはいたが、がりがりの明らかに栄養失調の姿であった。ぼろぼろで血まみれであったのが自然に任せて渇いた様子の服。

 ここまでどうやって来たんだ?脇から?草むらから?山奥?村があったっけ?記憶にはない。そんなに地理について深く勉強なんかしなかった。ただの暇つぶしのはずだったゲームだったのだから。それにNPCの少年たちなど何人もいるのだから。。

「・・・・・・(じっ)」

「(びくっ)」

 アキラは嫌だなと思った。この少年たちは、アキラが向かう都市に行くつもりなのか?それとも強盗だろうか?後者なら殺してしまおうか?

 まだゲームの時みたいに人を殺したことはないが、ここの世界では外は少しの危険も遠ざけることが必須。そうじゃないと死ぬ。まあアキラはゲームだった時は、死んでもホームに死に戻りするだけのはずだけど。そうだけど。でも、本当に今でも死に戻り機能が働いているのだろうか?

 アキラは少年たちを見つめながら次々とある考えを巡らしていく。

「・・・・・・」

「(・・・・・・ぐすっ)」

「はあ・・・・・・一緒に行く?」

 結局はアキラは負けたというわけで。こんな少年に一撃喰らってもダメージなんて数えるくらいだろう。そう考えて、アキラは少年たちに背を向けて歩き出すことにした。止まっていても無駄だ。

 少年たちは、10秒ほど相談していたが、結局アキラに着いてきた。彼らの視線は、希望と期待がぐんと増えたようだった。むず痒い。

 

 

 

 暗くなり、たき火を炊いてマジックポケットから毛布を出して、水とタオルを少年たちに渡したとき、彼らは水をむせるほど勢いよく飲んだ。考えてから、ポケットからチキンの串焼きを取り出して火で炙って食わせてやれば、泣きながら食べた。それからポケットの中からなんとか服が合いそうなものを取り出し、水で絞ったタオルで拭いてやってから着せてやると、なかなかイケメン揃いになった。これで都市でも衛兵に捕まることはないはずだと安心した。ババアか私は。仕方ない、都市にもなると容姿は重要。見た目は大事なのだ。

 少年たちに毛布を巻いてやるとたちまち寝てしまった。爆睡だ。アキラがここで逃げたらどうするはずだったのだろうか。まあ逃げないけど。山奥から迷子とかになって、やっとここまで帰って来れたに違いない。都市に着けば大丈夫。そう考えて見張りを始めた。

 

 天使みたいな人だった。やはり見かけより年上で成人しているのだろう。そう感じられる女性だった。彼女は食料も水も衣服も用意してくれた。毛布は暖かく、火は久しぶりで涙が止まらなかった。モンスターがたいてい苦手なのは火なのだが、ここまで魔法も使えない自分たちには火など無く、発狂しそうなほどの精神で、怯えながら移動してきたのだ。そこに優しい人と暖かい食事と清潔な水に毛布が来たら、寝るしかない。当然のように僕たちはたちまち睡魔に負けたのだから。

 

 朝日が昇った。アキラは少年たちが起きるのを待ち、ジャイアントベリーの実を絞って混ぜたミルクを飲ませてやってから移動を開始した。

 少年たちは金髪と毬藻と茄子といった頭髪の色で呼んだ。金髪以外は首を傾げたが頷いた。名前はきかないことにした。彼らも聞いてこない。お互い様だ。

 少年たちは、道にたまに出てくるモンスターに飛び上がるほど驚くため、いちいちこちらがびびる。

 アキラは簡単な魔法で次々に倒していく。

 アイテムをこぼして消える魔物を呆けて見ていたと思ったら、少年たちはアイテムを拾って持ってきた。

「・・・・・・いらないからあげるよ」

 そういうと少年たちは驚いた。

 木の間隔がだんだんまばらになり、林が低めの茂みに変わり、膝ほどの草原になり、晃たちは丘を下りていく。

 ところどころに野生の牛がいる。あいつらもモンスターだが、飼育可能の食える牛だ。

 少年たちはきょろきょろしている。もうここまでくれば少年たちも落ち着いてきた。

 都市は大きく、しだいに見え始める民家に、少年たちは喜びに満ちた顔になる。

 城壁に囲まれた都市は、その周りに下級の農民たちの集落をかかえ、城壁の中はほとんどが中流階級、さらにわずかな上流階級と王宮が立ち並んである。簡単にいうと、より中心がお綺麗なお貴族様の家々ということだ。わかりやすい。

 アキラは門に並ぶとカード手続きを始めた。ここは大都市で、確認された証であるカードが必要なのだ。ここは珍しく戸籍登録もどきみたいな制度があるらしく、それはとてもすごいことだと思う。

 アキラは少年たちと列に並ぶとカードを作り、少年たちが同じようにカードを貰うところを確認すると彼らに手を振って別れた。彼らは遠くなるまで見つめていた。私は安心した。

 

 


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ