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案外近くにいるもんやで

作者: 月夜 風花


「シバ!! 聞いて聞いて!!」

教室に入るなりいつも以上にハイテンションの友だちに抱き着かれた。

「ちょっと、どうしたの?」

「それがね…な、なんとっ!! わたくし、彼氏できましたああ!!!!」

満面の笑みでこの友だちは、えーっと、なんて言ったんだっけ?

できた? カレシ? か、彼氏ッ!?

「キャーッ!!!」

一拍遅れて理解したあたしは叫ぶ。

「うっそおおおー!!!!!!」

えへへへっとにやけて笑う友だちを睨みつける。

「ごめんねぇ、シバ」



彼氏いない歴=年齢の羽柴(ハシバ) 夏帆(カホ)です。

って言ってもまだ中学生だし、あたしみたいな人も結構いるから特に気にしてないんだけどね。

ただ、何故強調したかというと…。

「んじゃあ、約束は約束だしぃ? 今週の土曜はどう!?」

うっしっしと笑う先程の友だち。

そんな笑い方してたらせっかくの彼氏も逃げるぞ。

「はぁ…、分かった」

あたしとこの友だちは競争をしていたんだ。

どちらが先に彼氏ができるのかっという…罰ゲーム付きの。

負けた方が勝った方にケーキバイキングをおごる。

「くっそぉ、なんでこんな勝負を…」

その理由は明白だ。

ケーキバイキングをタダ食べれるチャンスがあったから、だ。

羽柴にはこれは勝負ではなく、おごらなければいけないかも、タダで食えるかも、という一種の賭けだったのだ。

「お前もアホやなぁ」

隣で笑ってる大阪弁の男子。

「アホ言うなバカがッ」

「なんでやねん、どう考えてもアホやろお前」

一生懸命笑いをこらえながらしゃべっている。

「何処にお前の彼氏になる奴がおんねん」

言いたいことを言わせとけばすぐこれだ。

「ええいっ!!! うるさーいっ!!!!」

バシッ

「いってぇ!! ほらすぐ叩きよる、それがあかんっちゅーねん!!」

余計なお世話ですよーっだ!!

内心で毒づきながら、あたしは無言で教室から出て行った。




「はぁ…」

そのまま屋上に行くと、朝だからか誰もいなかった。

そろそろ教室に戻らなきゃ授業に間に合わない時間ではある。

だけど、なんとなく授業を受ける気分じゃなかった。

「このままここにいたいな…」

ドアの横に座り込む。

屋上は好き。

風が気持ちいいし、なんて言ったって広い空を見上げれる。

今じゃ町の空は狭く、建物の隙間の四角い空しか見れない。

あたしはこの、どでかい空を見るのが好きなのだ。

「やっぱ屋上はいいねっ」

そのままドアの近くで寝転がる。

絶対にフェンスの近くにはいかない。

高いところはトラウマがある…。


ヒューッ!!


突風が吹き上がる。

『カホッ!!!』

その風の中に懐かしい声が聞こえた気がした。

「アツシ君…」

ボソッと呟いていた。

そのまま目をつむり思い出に浸りながら、いつしか安らかな寝息をたてていた。






『なんやねん、シバのやつ…』

授業中に空いてる席にチラチラ視線をやる。

朝にいつもみたいに軽い口争いをした。

羽柴がプイッと黙って教室を出て行ったが、特に気にしなかった。

『どーせ授業前には戻ってくんねんやろ』

そう内心で笑ってた。

しかしどういうわけか授業が始まっても戻ってくる気配がない。

『何してんねん、シバ…』

自分の所為ではないやろうけど、と思いつつも気になってしかたがない。

その所為で授業は集中などできず、えらいゆっくり進む時計をイライラしながら睨みつけていた。



チャイムが鳴ると同時に教室を飛び出した。

『結局授業サボりやがったやん、あのアホッ!!』

行きそうな場所なら見当がつく。

ダッシュで階段を駆け登った。


ガチャ


静かに開く屋上のドア。

「なんやねん…、こんなとこで寝とるんかいな」

失笑してしまった。

「おい、起き…え?」

起こしかけて気がついた。

寝ている羽柴の顔をよく見ると、目から頬に涙の跡がある。

「…シバ」

静かに呼びかける。

少し顔をしかめて唸る羽柴。

どうしたものか、と考えていると、

「ぁ…ぅん」

「え? なんや?」

「あ、つし、く…ん」

「あつし、くん?」

「…えへへへ」

一瞬起きてるのかと思ったがどうやらまだ夢の中のようだ。

『なんで俺こんなにイライラしてんねんやろ?』

羽柴の口から漏れた知らない男の名前。

愛しそうに呼ぶその声に、

「くそっ、おい起きろアホォッ!!!!」

「ふぇっ!? な、なんであんたがいるの!!」

「普通、授業サボって寝てるかアホッ!!」

「あ、アホアホ言うなようるさーい!!!」

いつもみたいに口喧嘩をしながら俺は先に階段を下りて行く。

「ちょっと待って!! あのさ…」


ありがと


振り返るとそっぽを向いている羽柴がいた。

「そ、それとさ!!」

必死に話を変えようとする羽柴を見ていたら俺は思わず笑っていた。

「あたし、寝言言ってなかった?」

ドキっとしたが

「そんなん知らんわ、それよか急げって!! 時間ないやんか!!」

「あ、うん!! ごめんっ!!」

ダッシュで追い抜かれ、俺は慌てて追いかける。

『まるで今の俺の心情みたいや』

また失笑。

前を走る背中を追いかけながら思う。

『何処のどんなあつしくんか知らんけどな、お前ももっと近くを見てくれろや。ここにおる俺を見てくれや…ホンマに』







お読みいただきありがとうございました(*´ω`)


先走って短編を書いてしまいましたが

いつか羽柴を主人公にした物語をかくつもりです(笑)

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― 新着の感想 ―
[一言] はじめましてっ!ツイッターから来ましたっ! 短編と言う事で一気に読ませて頂きました。 なんだかいいですねー。 作風も文章もすべてが若々しくて、羨ましいばかりです。 小説としてはいろいろと思…
2013/08/06 04:42 退会済み
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