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第五話 「永田町=平和愛好者 9月6日―Day+5」

連続投下します。


※ 本作はフィクションです。実在の人物・団体・国家などとは一切関係ありません。

また、本作は娯楽を唯一の目的としています。


――西暦201X年9月6日 日本列島 首都東京 永田町 国会議事堂



「では、賛成の諸君はご起立願います。――賛成多数と認めます。よって本案は可決、成立しました。」


議長が宣言すると、雄叫びのようなどよめきが沸き起こり、続いて拍手が巻き起こった。

参考人と記されたタグを首から下げた制服の男と、閣僚席に陣取っていた政府首脳陣が握手を交わし、首相とともに議場に対し一礼する。


そんな彼らのもとに、多くの議員が握手を求めて集まってきていた。

傍聴席や放送席ではレポーターが興奮気味に話し続けている。

この20日あまり、臨時国会は大荒れ気味の中続いており、度重なる余震の中でも次々に法案を可決成立させ続けていた。

その集大成がこの日成立した「防衛戦争決議」であった。


自衛隊法を改正する形で制定された国防軍法によれば、突発的に戦争が開始された際に行われた軍事行動については国会決議による追認と方針についての承認が必要とされる。

すなわち、武力行使の範囲・攻撃対象・作戦方針についてである。

今回成立したのは、目下進行中である「南西日本有事」における武力行使対象であった。

いわく、「侵攻国の軍事的施設と軍事力を対象とし、日本国の領域内および侵攻国の戦力策源地に対し、日本国が保有するあらゆる戦力を行使し武力行使を行うことを認める。」事実上の全面戦争の肯定であった。

さらに使用される戦力の制限はなされていない。


――当然、この決議にあらゆる方法を用いて反対する者もいた。



「なぜ、こんなことになってしまったのだ…」


平和友好党党首 超野友夫は暗い思いで議場の熱狂を見つめていた。

彼の周囲では、同志である友好党員が不安に染まった表情でこちらを見ているが、彼はそれを気遣ってやる余裕がなかった。

あらゆる感情をごった煮にしたような彼の瞳は、議場のある領域でさかんに拍手を送っている人々を目にとらえ、感情を爆発させようとしていたのだから。


「裏切り者…平和の道を捨てて軍国主義者におもねる裏切り者が…貴様らは何をしたのか理解しているのか!?

貴様らは大政翼賛会を復活させたのだぞ!!」


彼の側からみれば、拍手を送っている連中、つまり彼らの「同志」であった憲政擁護党の連中は憎むに値する敵だった。

彼らは、沖縄で生じた武力衝突を「平和裏に解決する」ことを目的に団結する約定を交わしたばかりであったのだ。


「国防軍を設けるなどというアジア市民への裏切りをした我々に対する反感を和らげるには、ともかくも平和的に事態を解決することが必要だ」


と主張した超野に対し、憲政擁護党は「平和憲法の再構築のために協力」すると返答。

そのために突発的事態に伴う防衛決議を求める国防軍を受けた緊急集会において、決議は牛歩戦術や審議引き延ばし、友好関係のマスメディアを用いた世論の「啓蒙」ですぐには行われなかったのだ。

超野は確信していた。アジア市民の一員である中国の人々は、約束を守ると。


「琉球――沖縄に存在する他国の軍が脅威なのであって、わが中国に琉球をわが物にする意思はない。

しかし、日本政府が美国アメリカに逆らえないのなら、我々は琉球人民の声を代弁する政府を設けることで平和裏に美軍(米軍)を立ち退かせよう。

あなたたちはその中にあって日本人民を導き、正しい道に引き戻すよう努力してほしい。」


超野に対し、中国側のメッセージはそう語っていた。

彼は感動した。

日本の度重なる過ちをもアジア的な優しさを持つ中国は許そうとしているのだ。

そのためには、琉球に対する日本のちっぽけなプライドなどない方がいいではないか。

沖縄の民意が反映されるようにするための独立、それも正しい選択だ。

超野はそう考え、国防軍などという暴力機関の行動を阻止しようと全力を尽くしていたのである。


しかし、事態は彼の予想を超える勢いで進行した。


まず、原発攻撃。

これで震災対策のために日本人らしく団結しつつも戸惑いがちだった日本国民のほぼすべてが目の色を変えた。

一部の愛国の熱情にまかせた暴走であるとのことであるが、ここは一言何かいってほしいといった超野に対し、努力すると返答した中国側だが、それ以後は接触すらできなくなった。

めげずに超野はかつての伝手を使ってマスメディア各社と「琉球独立の正当性」を啓蒙した。

国名が変わったところで琉球人は中国人と同じく、同じアジア市民、地球市民であることに変わりはないではないかと。

反応は鈍かったが、正しさはこちらにあると彼は信じていた。


が、そういっているうちに奄美諸島に中国軍は侵攻。

中国と主義主張を同じくしているはずの社会主義党があろうことか対中強硬論へ大きく方針転換したのである。

許しがたい裏切りであった。

平和憲法の護持という戦後民主主義の義務をないがしろにする愚行だと超野は怒りの声を上げたが、対する社会主義党は一言「正気を疑う」と返答するだけだった。

何が正気か。

日本を再び戦争させるなという正論の、どこが正気を疑うのか!

ただ、正義の刃に怖気づき、過去の断罪を恐れているだけでないか。

日本帝国主義という人類史上最悪の犯罪的存在の復活を許してはいけないというのに!


しかし、まだ間に合う。

平和を、直ちに平和を!と超野は叫んだ。

しかし、中華人民の怒りは予想以上であったらしい。

それはそうだろう。3500万・・・いや5500万人だったかな?いやいや「多くの」人民を巻き込み…いやそうそう、南京大虐殺や細菌兵器戦・化学兵器戦を行い大陸で悪行の限りを尽くした旧日本軍への怒りはたとえ1000年たっても変わるはずがない。


日本本土に加えられた「懲罰」にわれわれは粛々と許しを請うべきところを、忌々しい現在の民自党極右反動政府は軍事関連の法律21案を次々に提出し数にものをいわせて成立させ続け――ああ同志の裏切りも痛かった、それにしてもころりと軍国主義者に騙される国民のなんという情けなさか――今日この日を迎えたのだ。


「今に見ていろ、軍国主義者め。もう手段は択ばない!!」


超野は高らかに胸を張った。


彼の頭の中には「平和」の一字しか存在していなかった。



というわけで投下いたしました。

感想などお待ちしております。

次回は逆サイドから見た「永田町2(仮題)」の予定です。



【用語解説】


「ご起立を願います」――すでに大勢が判明しているために行われた。


「タグ」――参考人を示す身分証明書。この場合、防衛省から参考人として出廷した武官である。


「臨時国会」――震災対応のために緊急招集された。憲法の非常事態条項により内閣には非常時の大権が付与されているものの、それは避けるべきものであるという不文律があった。

災害時においてそれはある程度正しかったものの、中国軍の本土侵攻という非常事態においては裏目に出、初動の対応の遅れにつながってしまった。

議員たちは各々それぞれの理由で熱意を発揮しており、20日あまり不眠不休の議員も多い。


「南西日本有事」――国会内での今次戦役の仮称。

舞台が南西諸島周辺と九州付近であるためにそう仮称されている。


「侵攻国の軍事的施設と…」――この決議においては敵策源地攻撃の手段と範囲についてゆるい制限しか加えられていない。

この一点において制限を加えるか否かが臨時国会において大きな争点となっていた。

しかし、空挺部隊による強襲や対艦弾道ミサイル攻撃に対処するために制限を加えるべきでないという意見や明らかになりつつあった中国軍の「日本人への」蛮行により押し切られた形となる。

そしてこの決議はのちに大きな意味を持つことになる。


「平和友好党」――本作はフィクションであり実在の人物・団体・国家とは一切関係ありません。


「憲政擁護党」――同上


「民自党」――同上


「超野友夫」――平和友好党党首。徹底的な反戦平和主義者であり、かつての憲法改正において反対したもののこれを阻止できなかったことに責任を感じていた。

そのため平和のための力の結集を図っている。


「極右反動政府」――いわゆる「一部の国」からの見方であるが、超野はそれに同意している。

確かに、国防軍、Nシェア、敵策源地攻撃は平和非武装の理想と比べれば極右である。

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