第十一話 「渤海湾=爆轟 9月11日―Day+10.1」
お待たせしました。ちょっと視点がかわりますが、一本投下いたします。
※ 本作品はフィクションです。
実在の人物・団体・国家などとは一切関係ありません。
また、作中に残酷な描写が出てきます。そういうものが嫌いな方は閲覧をご遠慮ください。
本作はいかなる戦争・差別行為もこれを許容するものではなく作中の描写はフィクションであることをここに言明しておきます。
――西暦201X年9月11日 中国大陸 山東半島 青島
1隻の大型船が航行していた。
全長は300メートルを超えており、広い幅と船体後部に寄せられたブリッジを有している。
甲板は平坦ではなく、いくつかの白い半球体をくっつけたような格好をしていた。
そして船体横に記されているLNGの文字がその船の正体を端的に示している。
LNG――液化天然ガスタンカー。
目下世界の火力発電業界において主流となりつつある天然ガスを運ぶ新世代の海のキャラバンである。
中国大陸本土では石炭火力発電が主流であるのだが、大気汚染対策に加えて新規建設が進む核電(原発)群の本格稼働はまだはじまっていないために急遽これらのLNG火力発電所が増設されつつあるのだ。
残念なことに、米国で行われているようなシェールガス開発という手段はプラントメーカーである日本との対立が続いているためになかなかとれない。
せめて技術導入をと力を尽くしたのだが、日本人は極端に「技術窃盗」を警戒しており、不愉快な話ではあるが首を絶対に縦には振らなかった。
そのため中国政府は中東各国に加えてアフリカ諸国との協力関係を密にし、自国印の液化天然ガス獲得に血道を上げていたのであった。
だが、そうした成果も今となっては怪しい。
対日開戦に伴い、湾岸諸国に加えてあれほど援助し友情を確認し合ったアフリカ諸国ですら中華に対する態度を硬化させており、何より英連邦諸国とアデン湾上のNATO軍艦隊は中国海軍の護衛艦艇を露骨に警戒しはじめていた。
中立宣言を行い、輸出を停止する処置をとった国すら出始めている始末だ。
そうでなくとも港にとめおかれたり、強引に出港して海上でNATO軍艦隊に拿捕されるなどの有形無形の妨害が入っていた。
まったくもって、日帝の悪辣な陰謀はすさまじい。
この日、青島に入港できたLNGタンカーはそんな中でも運良く開戦前に出港できた一隻で、航路を大回りしてようやく本土に到着できた一隻だった。
本来ならば上海か杭州湾岸に接岸するはずであったのだが、海軍の要望で船は東中国海(シナ海)で進路を北へと変えた。
中国海軍北海艦隊の本拠地、青島。
航母「遼寧」の現在の母港であるこの地には、新造ドックとそれに電力を供給する発電施設が付属している。
さらには渤海湾沿岸の工業地帯もLNGの不足が出始めていたのだ。
このあたりならば、日帝本土に上陸しているわが勇士たちと海軍艦艇の哨戒圏内であるし、重要な軍需物質積み出し港である天津や大連などの邪魔をすることもない。
中国国家海洋局の当局者たちは、九州南部へ向けた兵站線を維持することに四苦八苦しており、鹿児島の石油備蓄基地には原油しかおいていなかったことやその扱いについて政府と軍と国営企業が泥仕合を演じたこともあって「輸送船は目的ごとに出入りする港を限定する」という「駅伝方式」を選択していたのであった。
おかげでタンカーは海上で3日を待たされた。
いかに、韓国政府が対日参戦の意向を示しているからといってこれは気分のいいものではなかった。
そのためか、入港を前にした船員たちの顔には安堵の表情が浮かんでいた。
・・・その刻までは。
「何だ?」
船員の一人が首をかしげた。
おいどうした。という声に一言断ってから、船員は渤海湾の半濁した海水を見やる。
鯨か?
確かに何かが船体をたたいたような感じがしたのだが。
再び首をひねり、船員は入港作業に戻ろうとした。
次の瞬間。
――巨大な衝撃がタンカーをおそった。
下から突き上げるような衝撃波は、船員を1メートルあまり空中に放りだし、そして甲板にたたきつけた。
慌てて、船内に乗り組んでいた海軍の軍人たちがわらわらと甲板に出てきた。
戦時国際法に完全に違反している行為であったが、海賊対策という名目で乗船していたのだ。
「テロか!?いや・・・」
今は戦時だった。
船員は愕然となった。
まさか、潜水艦か?!
おのれ日帝。
衝撃でしたたかに打ち付けた後頭部をさすりながら、再び立ち上がろうとしたとき、船員は再び衝撃を受けた。
今度はひとつではない。
畜生、やりやがったな。
船員はあらん限りの罵倒を口の端にのぼらせようとして、そして気付いた。
ごうごうという音が聞こえる。
それが何か思い浮かんだそのとき、船員の顔から血の気が引いた。
あわせて聞こえる発砲音。
海面を射撃する兵士たちだ。
船員はそれを速やかに止めるべく息を吸い込み――
――同 東シナ海上 日本国防海軍 攻撃型潜水艦(SS) 「剣龍」
「爆発音、連続できます。位置検索――青島港です。」
「さらに連続。天津港、大連港いずれも爆発を確認。海底地震計からの情報――きました。
爆発威力約3.2メガトン。」
「『ヴァージニア』より通信。これより攻撃は第二段階へ移行する。」
「『テキサス』発射はじめました。」
「『ハワイ』『ノースカロライナ』『ニューハンプシャー』攻撃準備完了。」
「『蒼龍』『雲龍』より観測結果の詳報が入っています。モニターに映します。」
かつて、日中中間線と称された海域、かろうじて日本領という微妙な立ち位置にある沖縄本島の北方にその潜水艦は潜んでいた。
ひっそりと息を潜めつつ、しかしその中枢たる発令所の中は押さえきれない興奮に満ちている。
それもそのはず。
彼らはこの1週間ほど海中で忍耐を強いられていたのだ。
目の前を彼らの本土へ向かう勝ち誇った連中が通過する間もじっとこらえて。
音はしぼりに絞り、空気がよどむのをまったく無視し、ただひたすら前に進み続けた彼らは、朝鮮半島沖合や尖閣諸島のはるか沖に達した時点で「荷物」を放出。
来たときと同様にゆっくり引き返した。
余分な荷物がなくなったために帰りはある程度楽ではあったが、それでも神経をすり減らすことに変わりはない。
幸いというべきか、彼らは敵の潜水艦には遭遇していない。
哨戒機にもだ。
それが彼らの「攻撃」方法が間違っていないことの証左であるのだが、逆にいえば慎重に選ばれたその方法こそが彼らを焦らした。
「やりましたね。艦長。」
海軍特有の、「ちょう」にアクセントをおいた呼び方で呼ばれた内藤裕一郎一等海佐にとってもそれは同様だった。
彼としても、ひげをそるのにも気を遣い、風呂に2週間も入っていない状況はつらいものであったのだ。
「ああ。大成功だ。」
だからこそ、してやったりという表情を彼は部下である副長に向けることができた。
「通信によりますと、少なくとも主要5港湾に対し甚大な打撃を与えることに成功。
混乱に乗じれば戦果はさらに拡大することができるでしょう。」
本土の超長波通信施設から送られてくる情報は、東シナ海の海底に設置されたSOSAS(海底設置型ソナー群)網に加えて海底地震計の観測結果を偵察衛星のそれと重ね合わせたものだった。
海中にいながら受信ができる電波通信システムはいささか使い古されているが、その情報をまとめるために超高速インターネット衛星「きずな」までもが動員されていることを考えるといささか奇妙な感はある。
だが、それらの成果はきわめて大きい。
まるで見ていたかのように、こうして時間を見計らった飽和攻撃が可能となったのだから。
――かつて海上自衛隊と呼ばれていた国防海軍の潜水艦隊は、あまり知られていないが世界有数の強力な潜水艦部隊である。
防衛大綱に隻数が縛られているために、技術の継承と常に最新鋭の艦をそろえるという贅沢きわまりない選択をした海上自衛隊は、その保有する潜水艦をすべて艦齢20年未満の艦で統一していたのである。
通常の潜水艦が40年ほど、下手をすると原潜などは半世紀も使い続けられるのに対し、これはそのすべてが新鋭艦ですといっているも同然である。
だからこそ、中国海軍の軍拡に対応する形であっさり「6隻追加」だの「10隻追加」だのということができた。
何しろ、年に1隻は必ず作っているのだ。
まだ使える艦をわざわざ解体するまでもなく、そのまま現役にとどめておくだけで隻数は増やせる。
もっとも、乗員の数に限度があることもまた事実ではあったが。
こうして増強された潜水艦隊は、艦齢25年未満の艦が練習潜水艦も入れれば30隻。
中国海軍の通常動力潜水艦の3分の1ほどであり、同じ頃に作られた新型艦でいえばむしろ日本側の方が多かった。
そして、原子力潜水艦というやかましい(当然だ。原子炉を冷却し続けるためにタービンをガンガン回し続けねばならない原潜と、エンジンを止められる通常動力潜水艦のどちらがうるさいかはちょっと考えてみればわかる)艦ではないうえ、AIP動力――非大気依存水中動力を搭載して飛躍的に行動半径を増大させた国防海軍は海の忍者として大物を狙った。
軍艦?
そんなものは大物狙いの連中に任せておけ。
商船?
いい線だが今はまだ早い。
タンカー?
うん、まぁいい。
だが、それだけではもはや足りない。
――狙うのは、中国大陸沿岸の工業地帯。そしてその心臓部である大規模港湾だ。
これもあまり知られていないが、中国は資源輸入国である。
自国内でも石油は出るがそれだけでは足りない。
まして希少資源は。ことによると食料も。
中国は輸入資源のために国内で資源を加工し世界に売るという加工貿易国家であるのだ。
日本と同様に。
陸路での資源輸入はまったく足りない。
効率が悪すぎるのだ。
はるか天山山脈を越えてタンクローリーの車列を連ねることなど考えたくもない。
なお、頼みの綱ともいえるロシアからのパイプラインは、国内に直接入ってこないうえにあろうことか日本側勢力圏の対馬海峡を通って海上輸送せねばならない。
ゆえに、中国にとっての空気であり水である資源を取り入れるための口、大規模港湾は封鎖の対象となり得る。
日本側は、歴史に忠実だった。
彼らをかつての大戦で追い込んだものが通商破壊戦、もっといえば「B29から投下された大量の機雷による港湾の封鎖」にあることを熟知していたのだ。
現代においても「関門海峡で機雷発見」だの「新潟港で機雷発見」といわれるように、日本本土の港湾は機雷で埋め尽くされた。
そのため、みすみす失血死していく本土に物資を搬入することすらままならなくなっていたのである。
運良く外へ出られたとしても、米潜水艦隊が手ぐすね引いて待ち構えている。
だからこそ、開戦時には世界第3位の立派な商船隊を誇った日の丸商船隊は終戦時にはわずか50万トンあまりまでうち減らされ、港で朽ち果てる有様となってしまっていたのだった。
日本側はその再現を狙う。
といっても、空中からえっちらおっちら機雷を投下する必要はない。
日本には、そんなことをせずとも「自分から目標に近づいていき爆発する」という恐るべき機雷が存在する。
そしてその敷設部隊も。
旧軍のトラウマからか世界最大の掃海部隊を有する国防海軍は、同時に世界最大の機雷戦部隊を有しているのである。
投入されたのは、91式機雷および15式機雷。
その敷設には秘匿名称「15式掃海具」と呼ばれる特殊無人潜航艇が用いられた。
これらの機雷は音響・磁気・接触の複合感知式である上、自らは音をたてずに海底から上昇する浮力を利用しつつ目標へ「音もなく」接近、爆発するという恐るべき性能を持っている。
かつてのソ連艦隊による海峡部突破を警戒して開発されたこの機雷たちは、もとは航空機投下型であったが、運用の変化にあわせて改良が施され、実に数百発が現役であった。
敷設に用いられた15式掃海具はその名の通り海中を航行し機雷を発見除去する自律型の無人潜航艇でもあるが、それだけではない。
海中を連続数週間も航行し、まるで海中を走る列車のように引き連れた機雷たちを目標の港湾前面に敷設する機能を有した、機雷戦用の特殊潜航艇であるのだ。
大容量のリチウムイオン電池を搭載することで行動可能日数を飛躍的に増大させ、かつプログラミングに従って時には海上を航行する民間船舶の下にはりつき定置ソナーをごまかし、また海中雑音と聞き間違えるくらいに推進器を絞り込むことで警戒の網の目をくぐり抜けることで、彼らはまんまと港湾の前面に機雷の敷設に成功していたのだった。
もちろん、中国側も対策を行っていないわけではない。
だからこそ、この知能化機雷たちにはある指令がセットされていた。
「合図があるまで沈黙せよ。しかる後に、特定の大型船舶を狙え」と。
目標は、第一に大型のLNGタンカー、第二にガソリンなどの軽質油タンカー、第三に重油タンカーで、第四位に弾薬などを運んでいるかもしれない補給艦である。
軍艦などはそれよりも下位に設定されている。
潜水艦や特殊潜航艇による奇襲を警戒してもうけられていた海中の網「防潜網」の外側に敷設されるはずだったため、日本側は「威力」を狙ったのである。
もっとも、中国側はその補給線を維持するために防潜網を埠頭の近くに設置するか一部解除するかなどしていたために後から考えればその必要はなかったのであるが。
ともかく、そうして配置についた機雷たちは、「指令」を待った。
そして数日の後、解除信号が送られた。
はるか数千キロ先まで届くといわれる鯨の声や海底火山の活動音でもある低周波の信号は、機雷群を目覚めさせ、そして手近にいた入港しつつある「目標」へ殺到した。
ここで考えてみてほしい。
10万トン(重量トン)級タンカーとは10万トンの燃料を運べるタンカーであると大まかに考えれば?
そしてそれに搭載された可燃性の燃料が一気に爆発したとしたら?
その威力は、単純計算で100キロトン。
これは、戦略核ミサイルの弾頭のそれに匹敵する。
そして、こうしたタンカーの近くには、石油タンクやLNGタンクが存在している。
その量はタンカーのそれをはるかに上回る。
100万トンを越えるところなど当たり前のように存在しているだろう。
そこにもし「核弾頭が炸裂したら」?
当然、炎上するだろう。
衝撃波によりタンク外壁が破壊され、漏れ出した燃料は大量の熱量により気化し、ほどよく空気と混ざり合い、そして――
大爆発する。
単純に計算すれば、1カ所あたり10メガトン――広島型原爆500発分の威力の大爆発が生じることになる。
これだけの大爆発を受けて無傷な港湾施設は存在し得ない。
その10分の1くらいあっても同様だろう。
こうした惨劇を想定して燃料タンク群には十分な防備が施されるのが常となっているのだが、残念ながら高度成長期の日本同様、否、それ以上に中国本土においてはタンクの品質にいささかの問題があった。
それに、核攻撃を想定してタンクを作れなどとは無茶である。
また、中国海軍は旧日本海軍同様、「正面装備にこだわり足下はお粗末きわまりない」という新興海軍特有の悪弊を持っていた。
予算不足に泣いていた旧海上自衛隊未満という機雷戦戦力はその最大の犠牲者であったのである。
――この日、中国大陸沿岸の9カ所の港湾において大小の爆発が発生。
うち6カ所では核攻撃もかくやという巨大なキノコ雲が立ち上り、ついで米海軍の「ヴァージニア」級攻撃型原潜部隊と退役間近の「オハイオ」級対地攻撃巡航ミサイル原潜から放たれた「タクティカルトマホーク」巡航ミサイル群が残る獲物を食らいつくしていった。
大連、天津、青島、寧波、そして杭州湾(上海)。
中国大陸への物資の輸出入を司る大規模港湾および海軍軍港の実に70パーセント近くは、たった一度の攻撃によって壊滅的な打撃を受けたのだった。
核攻撃に匹敵する被害に蒼白になる中国当局に対し、日米は「これは核を使わずに実施した『人道的な』報復攻撃である」との声明を発表した。
それは、原発に対する質量弾頭攻撃を「人道的な警告」と自画自賛した中国側発表への痛烈な意趣返しであった。
なお、被害者数に関しては両陣営で発表される数字は食い違っている。
そしてこの時、陸での戦いも第一の佳境を迎えつつあった――
【用語解説】
「青島」――中国山東半島の先端部にある港湾都市。渤海湾の入り口に面しており、19世紀末から20世紀にかけてはドイツ第二帝国の租借地として繁栄した。そのため現在でもビールが有名である。
中国海軍北洋艦隊の主力を有する軍港都市となっており、空母「遼寧」の母港もこの港である。
「LNGタンカー」――液化天然ガスタンカーのこと。石炭と違い天然ガスは煤煙などがほとんど生じずかつ火力も大きいため、火力発電においては設備を安価におさえつつ発電量を増大させられるという一石二鳥のメリットがある。
石炭火力発電でも煤煙や窒素酸化物対策を施せば効率は高いものの、関連技術や設備の費用がかさむため日本などの先進国にしか用いられない。
中国では大気汚染対策と資源の有効活用を目指して原子力発電に力を入れてきたが、日本で生じた原発事故の影響もあり計画は遅延。
このため増大し続ける電力需要をまかなうためにLNG火力発電を推進した。
しかしそれが逆に資源価格の高騰を生み、本質的に資源輸入国である中国財政の逼迫を助長している。
「航母『遼寧』」――中国海軍の練習空母。中国では航空母艦のことを「航母」と称する。旧ソ連の未完成空母ワリヤーグを購入後独自に完成させたものであるが、着発艦可能な設備と武装を持つなどその完成度は比較的高い。
ただし、作中時点で建造開始から40年近くとなっており上海で進められている国産空母よりも戦闘能力は圧倒的に劣る。
とはいっても空母の真価はその艦隊指揮能力のほかは艦載機の攻撃力であるので戦力価値は高いといえよう。
「鹿児島の石油」――鹿児島県に存在する志布志国家石油備蓄基地と串木野国家石油備蓄基地のこと。貯蔵量は合計で670万キロリットルに達している。
地下岩盤式の石油備蓄基地のため外部からの攻撃に対しては耐久性が高い。
中国軍は無傷で手に入れたこれらを用いて日本本土攻撃部隊の補給をまかなおうとしたものの、石油精製施設が半壊していたために計画は頓挫。
そこで宙に浮いたこの「戦利品」をどうするかで軍と政府、および国営企業が不毛な争いを繰り広げていた。
「アデン湾のNATO艦隊」――ソマリア沖に出没する海賊に対処し、かつ緊迫するイラン情勢や印パ情勢に対応する目的でスエズ運河の出口(紅海とアラビア海の間)からのびる海上交通路の要衝アデン湾には北大西洋条約機構加盟各国による海上護衛部隊が展開している。
これには日本と中国も部隊を派遣しているものの、米軍の第15任務部隊と合同作戦をとる旧海自・現国防海軍部隊に対し独自派遣である中国軍はアフリカにおける露骨な新植民地政策のために警戒を受ける立場にあった。
「剣龍」――旧海上自衛隊の「そうりゅう」型潜水艦4番艦。全長84メートル、水中排水量4200トン 水中速力は20ノット以上。最大の特長は潜行中もスターリングエンジンと呼ばれる高効率エンジンを稼働させることでのためにわざわざ充電のために海面にまで出てディーゼルエンジンをまわすという面倒かつ敵に見つかりやすい危険を冒さずに連続2週間あまりの潜行継続能力を有していることにある。
もちろん戦闘航海中は継続潜行能力は低下するが、フランスなどの原子力潜水艦をも上回る巨体をいかした余裕のある設計でこれを最低限におさえこんだ。
武装は魚雷発射管兼ミサイル発射管6門。本級からはよく「コーン」と音をたてているアクティブソナーは廃止されている。
作中登場の「蒼龍」「雲龍」は1番艦と2番艦。通常動力潜水艦としては世界最大である。
ちなみに中国海軍の増強に伴い、主蓄電池を鉛蓄電池からリチウムイオン電池に換装し一気に蓄電量を2倍に増強する計画であったが開戦には間に合わず6番艦の「海龍」以降に搭載されるのみである。
「爆発威力」――海上からの攻撃を想定せずに地上式のタンクを設置していたのが仇となった。さすがに核攻撃を受けることは想定されていないとはいえ、一気に爆発したLNGと石油などは港湾に甚大な被害を与えていた。
爆発威力の推定には、爆発により生じる地震波の測定によってなされる。
これは冷戦時に核実験の威力推定のために開発されたシステムによるが、今回は日本側が敷設していた海底地震計による精度の高い測定がなされた。
「ヴァージニア」――米国が誇る最新の攻撃型原子力潜水艦。
全長114.8メートル 水中排水量34ノット(推定)
冷戦時に開発された最強の攻撃型原潜「シーウルフ」級があまりに高コストとなったためその廉価版として建造された。
とはいってもその性能は非常に高く、最大潜行深度と最大速力以外はむしろ性能が向上している。
最大の特長として、スクリューではなくポンプ式の推進器を持つため推進器音が非常にとらえにくいことがあげられる。
また、冷戦後の世界情勢を考慮して特殊部隊の運用設備も有する。
大型化したタクティカルトマホーク巡航ミサイルを運用するため12基のVLS(垂直発射型ミサイル発射管)を有する。作中で巡航ミサイル攻撃を行ったのはこのVLSからである。
なお、作中の「テキサス」「ハワイ」「ノースカロライナ」「ニューハンプシャー」はいずれも本級に属する。
「リアルタイムの情報伝達」――作中に描写された海底地震計を通して伝えられた情報は、まず沖縄本島から超高速インターネット衛星「きずな」を通じて本土へ転送。これを偵察衛星などの情報をもとに分析し、日本本土の超長波通信施設から海中の潜水艦に向けて送る。
これを受けた潜水艦群は所定の作戦に基づき一斉に攻撃を開始したという流れである。
中国側の哨戒圏外にいる潜水艦からは逆に指向性電波を用いた通信が沖縄に向けて送られ、これも衛星経由で日本本土へ送られていた。
「日中中間線」――沖縄本島と中国本土の中間近くに位置する海域に引かれた線。
21世紀に入り天然ガス田問題をきっかけに激しいつばぜり合いが起こった海域でもある。作中の「剣龍」は軍事施設でもあった天然ガス田施設を破壊する任務もかねてこの海域にいた。
「贅沢きわまりない」――実際に海上自衛隊時代から1年に1隻のペースで潜水艦を作り続けている。建造場所は主として神戸である。
「艦齢20年未満」――旧海上自衛隊でも水上艦が基本的に40年使い続けられることを考えればこれがどれだけ異常なことかわかる。このため、日本の潜水艦群は常に最新の艦を備え続けることができた。
「原子力潜水艦はうるさい」――原潜用の原子炉は、高出力を出すために発電用原子炉のような20パーセント濃縮のようなものでなく90パーセント近い濃縮率を持つ不完全な核兵器に近い核物質の塊でもある。
そのため熱密度も高く、冷却には常にポンプで冷却水を送り込み、余分な熱をとらねばならない。
その動力としてタービンをまわし発電せねばならないのだが、当然のことながらそれによって生じた廃熱と蒸気とタービンによる雑音を完全に消去することなど不可能である。
このため防音ゴムやタイルなどを用いて音を押さえ込むのであるが、通常動力潜水艦に比べれば圧倒的にうるさいことは確かである。
そもそも原潜は外洋において無限の航続力を持つからこそ意味を持つのであって、大陸棚の200メートル程度の浅い海ではそのメリットは半減してしまう。
「大規模港湾の封鎖」――大型化する輸送用船舶を発着させられる港湾は限られる。そのため、大規模な港湾がその機能をマヒさせれば頸動脈を締め上げられたような効果を期待できる。
中国においては経済特区に隣接する港湾と北京など大都市の玄関口となる港湾の二つがそれである。
なお、内陸部に物資を輸送する河川交通網や長江以南については今回は攻撃の対象外となる。
「91式機雷」――冷戦時に巨大化するソ連太平洋艦隊に対処すべく日本が開発した世界初の複合浮上式機雷。
作中に記されたように、海底に沈下しつつ目標のスクリュー音や反応を検知すると自ら浮上しつつ目標へ忍び寄り、艦底で起爆。竜骨をたたき折り一撃で大型艦をも沈めることができる。
もともとは、超大国の圧力に屈して通行自由な国際海峡とせざるを得なかった津軽海峡や対馬海峡などを通る敵艦を標的とし、対潜哨戒機により散布する予定であった。
しかし冷戦の終結により使用が想定される事態は激減。
かわって、仮想敵国の港湾を封鎖するという太平洋戦争時の米軍がやったような運用法が浮上した。
これにあわせ、機雷戦を行える掃海艇や掃海母艦、潜水艦による運用を可能とするべく改良が行われ現在に至る。
作中においては、91式機雷に加え、その発展型として炸薬量を増大させつつ全体を合成樹脂によって覆った15式機雷が開発されたという設定。
なお、実際の91式機雷は材質はおろか炸薬量やその運用法・装備数も含めてすべてが機密のベールに覆われており筆者も常識的な妄想しかできないでいることを付け加えておく。
「15式掃海具」――自走(自航)式の無人潜航艇。本来は光ファイバーケーブルや海上ブイを介した無線誘導などで掃海母艦と連携しつつ長期間にわたり自力で海中を捜索、発見次第遠隔操作で海中の機雷を処理することを目的に開発された。
しかし貧乏性な日本はこれに機雷敷設能力を付与。
結果、今回の作戦に投入された。技術的には海洋研究開発機構(JAMSTIC)の無人プローブ「うらしま」シリーズの応用型である。
作中では20~30発もの機雷を牽引しながら1~2ノットの超低速で海中をゆっくりと進み、魚群や艦影に紛れながら港湾に接近した。
実は海自の潜水艦が巨大なのはこんな感じの機雷戦装備を持っているからじゃないのかな~というのは筆者の想像である。
「オハイオ級」――原子力弾道ミサイル原潜を改装したもの。SLBM(潜水艦発射型弾道ミサイル)ランチャーであったVLSの中にトマホーク巡航ミサイルを8基詰め込み、1隻あたり100発以上の巡航ミサイルを発射できる対地攻撃のエキスパート。
冷戦期の「レッドオクトーバーを追え!」で思い切り非難された先制攻撃用の潜水艦であるが、米国は世界の警察であるので問題ない(らしい)。
作中では、攻性機雷戦の結果核攻撃に匹敵する打撃を受け混乱する大陸の軍港群にこれでもかと打撃を与えている。




