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第十話 「八代=状況開始 9月11日―Day+10」

お待たせしました!

しかし本格戦闘には突入できない(泣

――「ごらん下さい!

ここクマモトには在日アメリカ軍第1軍に所属する第25師団が集結しています!

現行のM1A2エイブラムス戦車だけではなく、最新鋭のM1A3スーパーエイブラムス戦車の姿も見受けられます!

その横には、日本軍のタイプ10戦車がタイプ90戦車とならんで待機しています。

600マイルもはなれたホッカイドウから移動してきた部隊と、これまで逼塞を余儀なくされていた日本西部の部隊がそろって待機しているあたり、日本軍の本気具合が見受けられますね。


・・・はい!その通りです!


この迅速な機動には、日本側の船舶輸送路に加え、シンカンセンのルートが用いられました。

専用の高架軌道を使うシンカンセンは、1か月前の大地震で大きな被害を受けました。

私たちがよく知るマウント・フジをのぞむトウカイドウシンカンセンはいまだに復旧のめどすらたっていません。

しかし、50年以上をかけて整備が続いたシンカンセンのルートはこれを代替する日本海側のルートが存在しています。

ここを通り、韓国海軍の妨害をものともせずに戦車の迅速な輸送が成立したのです。

さすがに時速200マイルで走行はできませんが、専用軌道という強みをいかして鉄道輸送が行われ、オカヤマやヒロシマといった大都市を経由してキュウシュウへ移動するのにわずか1日!

第2次大戦初期のドイツ軍の西方電撃戦を彷彿とさせる移動速度です!


・・・はい。はい!

こうした輸送路へのテロは散発的に発生しています。

しかし、発効が前倒しされた戦時軍法に加え、殺気立ったといってもいいくらいに怒れる日本の自警団によって未然に防がれるか、盛大な銃撃戦に発展し、結果として輸送路は機能不全レベルにまでは至っていません。

先ほど申し上げましたシンカンセンはあくまでも軌道の一例でして、日本本土にはかつての帝国時代以来張り巡らされた長大な鉄道輸送路と、かつては無駄の象徴ともいわれた自動車用道がすみずみにまで通っています。

これらすべてを破壊するには、文字通りこの20万平方マイルの島々の隅々にまでバンカーバスター(地中貫通爆弾)を投下するか補修復旧を行う日本人すべてを殺しつくすという方法しかないでしょうね!


歴史が証明している通り、日本人たちは敵に対してはまったくすさまじい闘志を燃やします。

ですのでテロルやいやがらせ程度の爆撃では彼らの怒りをなだめるには至っていないようですね。

今日インタビューをしたクマモトのビジネスマンは、『火事場泥棒や裏切りを許せるほど我々は人間ができていない。過去にあぐらをかく連中はこの島から生きて帰ることはないだろう』と感情をたかぶらせていました。


・・・はい。

怒り、わめき散らすのではありません。

怒りが極まり、逆に冷静になっているようで、外見はまったくふだんのままです。

言葉を交わさなければわれわれ西半球の人間には普段の柔和な日本人と区別がつかないほどです!

情報統制はされていますが、それでも入ってくる虐殺や略奪の情報、そしてインターネット上の書き込みが時折報じられ、日本人の戦意をかきたてているようです。


はい。会戦が行われるとみられているのはこの・・・私たちがいるクマモト城から見えるでしょうか。あいにく地平線がかすんでいるために残念ながら見られませんが、このクマモトから30マイルあまり南にあるヤッシロ平原。

この中部キュウシュウの中心都市であり、400年以上の歴史を誇る城下町はぎりぎり重砲や戦域ロケットの射程外ですが、時折爆撃機が飛来し、市民は空襲警報のたびに身をかがめる日々を送っています。

航空機だけではなく、中国本土では台湾海峡向けに配備されていた中距離弾道ミサイル部隊が移動を開始したとの報道もあり、主要都市への核ミサイル攻撃を警戒してパトリオットミサイル部隊や戦闘機部隊が常時待機状態にあります。

その中でも、最新鋭のイージス艦アタゴとアシガラはワカサ湾とニイガタの原子力発電所周辺に待機してBMDシステム(弾道ミサイル防衛システム)で空をにらんでいますが、相変わらず海上の艦隊や移動した部隊の一部と連絡はとれません。


はい。

全体的には「かたずをのんで戦況を見守っている」というのが日本側の印象です。

しかし、熱狂する中国側の市民とは対照的ですが戦意は勝るとも劣らないというところです。


シンガポールで行われている日中間の停戦交渉が妥結したとしても、中国側はもちろんですが日本側も止まるとは思えないでしょう。



え?おや――おっと・・・!!

地平線が光りました!!


あちらには日米の地対地攻撃部隊がいたはずです。

詳しくは機密とのことですが、重砲ないしは多連装ロケットシステム(MLRS)の斉射が行われたとみられます!

いよいよはじまったようです!!


あっ。広報士官が呼んでいます。

アリガト! イマイキマスヨ!!スミマセン!


これより私たち従軍取材班は日本陸軍第2師団とともに戦地ヤッシロ平原へ入ります。

以上、クマモトからGNN アラン・リチャードがお伝えしました!!」





――西暦201X年9月11日 午前6時11分 日本列島 九州島 八代平野



「状況、はじめ。」


日米両軍による攻勢作戦はこの無味乾燥かつ万感の思いが籠った一語にて開始された。

現代戦において戦線という概念はただ灰色が黒でないという程度の曖昧さをもって語られるが、これは200年ほど前のように派手な軍装の歩兵が隙間が見えないくらいの密集隊形で行進しながら射撃を行ったり、100年ほど前のように長大な塹壕を掘ってにらみ合うようなことがなくなってしまったためである。

もちろん、町や都市などの拠点を占有し占領するためには歩兵を歩かせなければならない。

土地を確保したのなら取り返されないように番人がいるのだし、土地に暮らす住人を力で従わせるには最後には人と人とが向き合わなければならないのだ。


この原則からすれば、中国軍と日米両軍が対峙しているのは八代市内、国道3号線沿いの日奈久ひなぐから坂本までの小高い丘陵地帯といえるだろう。

九州の反対側に位置するもうひとつの前線、耳川古戦場付近と結べば、ほとんど同緯度となる。

しかし、この九州を横断する「戦線」において攻勢正面となれるのは、この丘陵交じりの幅10キロほどの海岸低地しかない。

そのため、両軍あわせて20万余りがひしめく戦場は、まるで冷戦時のエルベ川沿岸のように戦闘用車両で満ちていた。

その様子は現代によみがえったアレクサンドロスの重装歩兵軍団のようですらある。


中国側はここを攻勢正面と定めた理由がある。

海岸沿いを進撃してきた薩摩半島から上陸した部隊と小林盆地を経由して進撃してきた志布志湾から上陸した部隊が合流できる位置にあり、さらにここを突破できればあとは熊本平野から筑紫平野を経て北九州に一気になだれ込めるという絶好の位置にある。

対して、宮崎県側からの攻勢は山岳地帯を経由して大分県側へ抜けてもさらにまた山越えをせざるを得ない。

山越えを2回するよりも平野を突き進む方が楽なのは子供にも分かるし、距離的にも前者の方が適している。

何より、こうした限定された攻勢正面における突破戦は冷戦時のお手本であった旧ソ連軍同様、中国軍にとり「縦深攻撃」戦術を発揮する絶好の舞台であった。


俗にスチームローラーと称されるこの戦術は、簡単に言えば戦車などの機甲部隊が敵を押しつぶし、攻撃の衝力がなくなった時点で後方に控えていた同様の部隊を前線に投入、再び前進を継続しあとは同様に繰り返すという物量と火力、そして速度の極みのような戦術だった。

難点といえばその性質上敵よりも多数の兵力を持っていることが望ましいことだったが、大陸国家にとっては比較的容易なことである。

物量と火力で押しつぶす。今も昔もそれが中国軍の基本戦略構想ドクトリンであるのだ。


対する日米両軍にとって、ここは背水の陣も同様である。

もっと北にいけば事情は違うのだが、裏を返せばこの「戦線」を突破されれば、日米はそれなりに広い熊本平野で平地になれた中国軍とがっちり組み合うことになってしまう。

しかも少数戦力で。

逆にいうなら、この敵の戦力の展開と機動が制限される区域においてなら、日米両軍が磨き続けてきた火力を存分に投射して多数の敵に対抗できるのだ。

米軍は湾岸戦争をみてもわかるように攻勢のエキスパートであるし、日本はといえば実戦経験こそないもののここは彼らの本土である。そして、彼らもまた世界最強のソ連機甲軍団に半世紀以上の間備え続けてきた防衛戦のエキスパートだった。


――だからこそ、日本側の指揮官である川波省吾一等陸将は旧自衛隊時代の言葉で攻勢を開始したのであった。

「作戦」「戦車」「爆撃機」こうした単語すら使うことを禁止されながら耐え続けた自衛官たち。

その思いを引き継いだ男たちの士気は、天を突いた。



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