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『恋文恋文恋文恋文恋文恋文恋文恋文恋文恋文恋文恋文恋文恋文恋文恋文』

作者: 無音Ψ無心


 読んだことを後悔しないと確信の持てない人は、読まない方が身のためです。

絶対に後悔しないという人だけ、読み進めてください。

 これを読んだことによる後悔に関しては、作者は一切の責任を持ちません。




 私は想いを巡らせながら、鉛筆を滑らせた。小さな桃色の便箋(びんせん)につたない文章を(つづ)っていく。

 机の後ろの窓から差し込む紅い光が、便箋を照らした。

 先輩は今、何を思って、何をしているのだろうか……。

 などと、先輩のことばかりを頭に浮かべながら、一時間ほど掛けて、その手紙は完成した。

 それは――――恋文(こいぶみ)

 先輩に想いを伝えるための物。

思い起こせば、初めて先輩に出会ったのは二年前のことだった。学校に遅刻しそうになって急いでいた私は、その途中で人にぶつかってしまった。


 ――あ……ご、ごめんなさい!


 ――いや、悪ぃ。大丈夫か?


 ――は、はい! 大丈夫です。

 

 結局、学校には遅刻してしまったけれど、私にとってそんなことを含めて、全てがどうでもよくなっていた。

 あれっ…………?



 



ぶつかった時に、彼が私と同じ学校の制服を着ていることには気付いていたので、その日、私は全ての休み時間を使って、学校中を徘徊した。

 彼を見つけるのには、少し時間が掛かった。

 でも、彼を探している時間すらも、私にとっては(いと)おしかった。

 彼を見つけたのは、その日の放課後。唯一見に行けていなかった教室に、望みを託して行ってみると、そこに――――彼はいた。

 クラスメイトだろうと思われる人たちと何かを真剣に話し合っていた。

 私は教室の扉の小さな窓から、それを見ていた。

 それからも、彼についての…………彼が携帯を持っていないこと、サッカー部に入っていること、彼女はいないこと、家の場所、帰宅時間、などなど、その他にもいろいろなことを調べ上げた。

そして、初めて恋文を書いた。 

 

それが――――二年前のこと。


 それから、二年間の間、私は恋文を渡すのに最適なタイミングを(うかが)っていた。私は、家に帰ることも食事をすることも忘れていた。

 けれど、恋文を渡すことは出来ずに、その分だけ私の想いは深くなっていく。もう、止まれないくらいまでになってしまっている。

 だから。

 今度こそ恋文を渡して、私の想いを伝えるんだ。

 私の想いは絶対。

 一点の狂いも無くて。

 純粋で。

 無垢で。

 一心で。

 完全で。

 私の全てで。

 恋で。

 愛だから。

 ――だから、。

 私は心に決めた。





 先輩が学校に行くのを、私は後ろから追い掛ける。

 先輩は、部活の朝練のために、かなり早くに家を出る。だから、私はその一時間ほど前から、先輩の家の後ろ辺りで待っている。

 あっ…………先輩が出てきた。

 いつものように、紺色のエナメルバッグを肩に担いでいる。

 今日はいつもより少し出てくる時間が遅かったからだろうか、いつもは歩いていく先輩が珍しく走っている。でも……それはそれでいいかな。

 先輩を見失わないように、私も歩くスピードを速めた。

 学校に着いてから、先輩は部室で練習着に着替えて、朝練に参加する。

私はいつも、その光景を校庭の隅から見つめていた。

 朝練が終わった後も、私は先輩の近くから離れるようなことはしない。授業に出ることは無く、先輩の教室がある向かいの校舎の屋上で双眼鏡を覗いている。

 勿論、見ているのは――只、一人。

 恋文を渡せるタイミングを窺っているだけで、まるで渡せるような気がしないまま、私の日常は過ぎていく。

 でも、私はそれで良かった。



   ♀


突然だった。

先輩が…………亡くなった。

当たり前に。私は悲しんで。

泣いて泣いて。自暴自棄になって。

最後には……死のうとして。 

そして。

その時に……初めて私は気付いた。

ずっと、ずっとずっと前から。


――――私は死んでいたんだ。





 夜の学校。その暗い校舎の中を、俺は必死に走り続ける。

「はあ、はあ……」

 俺は息を切らして立ち止まった。

どうして俺がこんな目に会うんだ……。

大会の前日に交通事故で死んでしまうことだけでも、十分にひどい仕打ちだというのに…………いったい俺が何をしたって言うんだ。

――あはははははははは。

静かな校舎に不気味な笑い声が響き渡るのを聞いて、おれはまた走り出した。

俺はいつから走り続けているのだろうか? 

いつまで走りつづけなければいけないのだろうか?

誰か知っているのなら、教えてほしい。俺はどうしたらいいんだ?

――あはははははははははははははははは。

笑い声がだんだんと近くなってきた。

もしこれに追いつかれたら、俺はどうなってしまうのだろうか?

既に死んでしまっているから、まるで見当がつかない。

――あはははははははははははははははははははははははは。

もう、すぐ近くまで来ている。

いっそのこと、走るのをやめてしまおうか……。

そうすれば、楽になれる。

――あはははははははははははははははははははははははははははははははは。     

背後から笑い声が聞こえた。

 俺は諦めつつ、それでいて決心して……ゆっくりと後ろを向いた。

 そこにいたのは――赤い血塗(まみ)れのセーラー服を着た少女。


「先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩」








そして――彼女は消えた。








『Regret of abnormal girl』is the end.

The love letter was not passed.



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― 新着の感想 ―
[良い点] はっとしたら、合点がいって嬉しかった。 [一言] 結構深く考えてしまいましたww いやぁ。しかし久しぶりにこう言う小説を読めたので良かったです!! ありがとございました!これからもファイ…
2011/12/15 20:06 退会済み
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