081⚫️ホラー:緩やかなる歩みと、急転する世界 & 082⚫️大先輩あらわる
081⚫️ホラー:緩やかなる歩みと、急転する世界
進化とは、本来、途方もなく気の長い物語である。生物が世代を重ねる中で、周囲の環境に適合したわずかな変異が選別され、数万年から数百万年という単位で少しずつ組織や生態を変化させていく。それは、地球という巨大なキャンバスに描かれる、極めて緩やかで自然な発展のプロセスであった。
これに対して、革命・激変は文字通り世界のルールをひっくり返す。短期間のうちにこれまでの仕組みが根本から崩壊し、まったく新しい体制へと移行する。人類の歴史における産業革命やIT革命がその典型だ。
今、私たちが目撃している地球の生態系の変化は、この2つの概念を奇妙に、あるいは不気味に融合させている。一言で言えば、それは「レボリューション(激変)のスピードで強制される、エボリューション(超急速な進化)」である。
本来のエボリューションであれば、気候の変化は生物の適応が間に合う速度で進む。しかし、現代の人類活動が引き起こした温暖化や環境破壊は、過去の地球の歴史と比較しても数百倍から数千倍という、まさに「レボリューション」並みの速度で進行している。この急激なルール変更に対し、生き物たちはかつてない「超特急のサバイバル」を強いられているのだ。
その最たる例が、北極圏で見られるホッキョクグマ(シロクマ)の変容だ。温暖化によって海氷が激減し、従来の狩りができなくなった結果、南下してハイイログマと交配を始めている。その結果生まれた「ピズリー」と呼ばれる交雑種は、氷がなくても陸上で何でも食べて生き残れる雑食の性質を持つ。これは環境激変に対応するためのリアルタイムの「進化」に他ならないが、同時に純粋なホッキョクグマという種が消滅していくプロセスでもある。
また、カリブ海の島々に生息するアノールトカゲは、近年の巨大ハリケーンの多発という「激変」に対し、わずか数年という信じられない速度で足の裏の吸盤を大きく進化させた。暴風に耐え、木にしがみつき高所に残るための緊急避難的な適応である。フィンランドのウラルフクロウも、冬の積雪が減ったことで、雪に紛れるグレーの羽から、むき出しの土や木肌に隠れやすい茶色の羽へと、集団全体の遺伝子組成を急速に変えている。
これらの現象は、生き物たちの驚異的な生命力、すなわち「進化」の可能性を示している。しかし、手放しで感嘆することはできない。なぜなら、このように超高速で姿を変えられるのは、世代交代が早い生き物や、もともと遺伝的多様性が豊かな一部の種に限られるからだ。世代交代に長い年月を要する大型哺乳類や、変化のスピードに置いていかれた多くの生物は、適応が間に合わずに絶滅の淵へと追いやられている。
地球の46億年におよぶ歴史において、地球規模で生物の75%以上が同時に死滅する「大量絶滅」は、これまでに5回発生している。これらは「ビッグファイブ」と総称される。
その原因は、どれも圧倒的な自然の猛威であった。たとえば、約2億5000万年前のペルム紀末の絶滅は、史上最大の悲劇として知られる。超大規模な火山活動が引き起こした気候変動により、全生物種の90%以上が海と陸から消え去った。また、約6600万年前の白亜紀末には、巨大な隕石が現在のメキシコ付近に衝突した。立ち込めた塵が太陽光を遮って「衝突の冬」をもたらし、地球の覇者であった恐竜たちを絶滅へ追いやった。これら過去の絶滅は、当時の生態系にとって完全なる「ルールブレイカー」であり、既存の生息環境を文字通り破滅させた「レボリューション」であった。
科学者たちは、私たちが生きる現代を「第6の大量絶滅期」と呼んで警鐘を鳴らしている。シロクマやトカゲが超特急で進化せざるを得ない現代の生態系の変化と、過去の5大絶滅を比較したとき、そこには決定的な2つの違いが浮かび上がる。
1つ目は、「原因がたった1つの生物種にある」という点だ。過去の絶滅は隕石衝突や火山噴火といった不可抗力の自然現象であった。しかし現代の危機は、地球の生命史において初めて、ホモ・サピエンスという「人間の産業活動」のみによって引き起こされている。
2つ目は、「絶滅のスピードが過去の比ではない」という点だ。自然状態における過去の大量絶滅は時に、数万年から数十万年という地質学的な時間をかけて進行した。これに対し、現代の種の絶滅スピードは、過去の自然な背景速度と比較して100倍から1000倍以上という異常な速さで進んでいる。1年間に約4万種が地球上から姿を消しているという試算もある。数万年かけた過去の「レボリューション」を、人間はわずか数百年の時計の針で再現しているのだ。
過去の大量絶滅の後には、生き残ったわずかな種が空席となった生態系の枠組み(ニッチ)を埋めるため、新たな「エボリューション(爆発的な適応放散)」を遂げてきた。恐竜が絶滅したからこそ、生き残った小さな哺乳類たちが多様に進化し、最終的に人類が誕生した。
しかし、現在の生態系シフトが過去の絶滅と異なるのは、その絶滅の引き金を引き、生物に超特急の進化を強いている当事者(人間)自身もまた、その牙から逃れられないという点にある。「白いクマ」が「茶色いクマ」へと遺伝子を薄めて生き残ろうとするサバイバルは、人間が作った過酷な世界への適応だ。だが、このまま生物多様性の崩壊という名の「人工的な環境レボリューション」が進めば、やがて人間自身の生存基盤も失われる。
地球が本来持っていた緩やかな「エボリューション」のバランスは、人間の手による「環境レボリューション」によって破られた。過去の絶滅は地球の意志によるリセットボタンであったが、現代の激変は人類による自滅へのカウントダウンに他ならない。今、生態系で起きている急激な変化は、調和のとれた発展ではない。激変する世界のルールに必死で食らいつこうとする、生き物たちの壮絶な限界の防衛線なのである。
人間もまた、気候変動に合わせてエボリューションが進むのか。ネアンデルタールがホモ・サピエンスの中で僅かに存在を主張するように、サピエンスも新たな種の遺伝子の中で細々と生き続けるのか。あるいは全く異なる種によって発掘される、ただの化石となるのか。 多くの絶滅種たちは、暗闇の底で呟いているのかもしれない。
――今度はあなたの番だよ、人類……と。
082⚫️大先輩あらわる
なあにがあ、大絶滅だあ!
人類が破壊者だとお!
・・・ん、人狼としては、ちょっと納得するところもあるが。
だあが、これぐらいなんだあ!
オレたちは図太く生き延びるんだ!
えっ?ゴキブリがでた?
3億年の先輩を見習うべし!
あ、エイミー、殺虫剤かあ!
アキラはモニターにまで届いたスプレーを手で払った。




