宇宙ネコ ミャクター船長の大冒険:エビソード13「船長の新しい趣味(前編)」
広大な宇宙を航行するニャーバスター号の中は、いつものように穏やかな時間が流れていた。トビーは船内のモニターをチェックしながら、エネルギー残量や目的地までの距離を確認していた。
「エネルギーは十分、航路は順調。ふぅ、今日も平和だな」
しかし、ふと気づく。いつもそばで指示を飛ばしているはずのミャクター船長が、今日は妙に静かだ。
「船長? どこにいるの?」
トビーが船内を探し始めると、倉庫の隅から不思議な音が聞こえてきた。
カシャ、カシャ。何かを削るような音だ。
***
トビーが倉庫を覗き込むと、そこには何かに没頭するミャクター船長の姿があった。
「船長、何してるの?」
ミャクターは一瞬驚いた顔を見せたが、すぐにしっぽを軽く振って平然とした態度を取る。
「ああ、トビーか。まぁ、ちょうどいい。お前に見せようと思ってたんだ」
ミャクターの前には、小さな彫刻が並べられていた。それは木のような素材でできており、ネコの姿を模したものや、銀河の星々をかたどったものなど、どれも繊細なデザインだ。
「これ、船長が作ったの?」
「そうだとも! 俺の新しい趣味、木彫りだ」
トビーは驚きつつも、ミャクターの手先の器用さに感心していた。
「でも、どうして急に木彫りなんか?」
ミャクターは少しだけ得意げに胸を張る。
「宇宙船の航行は単調な時間も多いだろう? その間に何か手を動かしていると、気持ちが落ち着くんだ。それに、これを作り上げると達成感がある」
トビーは彫刻を手に取り、じっくりと観察した。小さな木彫りのネコが笑顔で座っている姿は、どこかミャクター自身を思わせる。
「これ、すごくかわいいよ、船長。意外とこういう細かいこと、得意なんだね」
ミャクターは少し照れくさそうにしっぽを揺らす。
その日から、ミャクターは木彫りの技術にますます熱中するようになった。
「トビー、見てくれ! これが新作だ!」
「おお、これは……宇宙ステーション?」
トビーが手に取ったのは、見事に彫られた小さな宇宙ステーションの模型だった。無数の小さな窓やドームまで再現されており、その精巧さにトビーは舌を巻いた。
「これ、船長が作ったとは思えないくらいすごいね!」
「なんだその言い方は。俺にだってこれくらいできるさ」
「ごめんごめん! 褒めてるんだよ、本当に!」
トビーは慌ててフォローし、ミャクターは満足そうに頷いた。
***
数日後、ミャクターはトビーに重大発表をした。
「トビー、俺はこの趣味をさらに高めるため、銀河彫刻コンテストに参加しようと思う」
「銀河彫刻コンテスト? そんなのがあるんだ!」
「あるとも! 宇宙中から芸術家たちが集まり、自分の作品を披露するんだ。俺がその場で優勝を飾れば、ニャーバスター号の名も広まる」
トビーは船長のやる気に微笑ましさを感じつつも、少し不安も覚えた。
「でも、船長って途中で飽きちゃうこと多いよね……本当に大丈夫?」
「なんだと! 俺を誰だと思ってる!」
ミャクターは自信満々に胸を張るが、その後すぐに新しい木材を手に取り、また彫刻を始めた。
「船長の新しい趣味がこんなに楽しそうなんて。ま、しばらくは退屈しなさそうだな」
トビーはそっとその様子を見守りながら思った。




